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マツダ・ビアンテ グランツ-SKYACTIV(FF/6AT)

もっと売れていいはず 2013.06.25 試乗記 佐野 弘宗 マツダのミドルサイズミニバン「ビアンテ」がマイナーチェンジ。スカイアクティブの2リッター直噴ガソリンエンジンと6段ATを得て、走りはどう変わった?

ミニバン界きってのカルトカー?

「ビアンテ」に、マツダ渾身(こんしん)のスカイアクティブ(のパワートレイン)が載った。搭載されたのは、「プレマシー」や「アクセラ」などと同じ2リッターガソリンと6ATの組み合わせ。これにともなって、既存の2.3リッター(直近の販売では、2.3リッターはビアンテ全体の1%にも満たなかったという)が廃止されて、FF車はスカイアクティブ2リッター1本となった(4WD車にのみ、従来型2リッターDISIエンジンが残る)。

新しいスカイアクティブ・ビアンテの本体価格は従来比で少し値上げとなるが、2リッター級ワンボックスとしては「日産セレナ」(のS-HYBRID)とならぶエコカー免税対象車に昇格したために、乗り出し価格は実質的にわずかな値下げになる。

ビアンテは「トヨタ・ヴォクシー/ノア」「日産セレナ」「ホンダ・ステップワゴン」という3強が寡占する“5ナンバーワンボックス市場”に真正面からチャレンジしたマツダ車であり、昨年インドネシアでの販売が決定するまで、マツダでは数少ない完全国内専用車だった。ただ、なんだかんだ言っても今も月間1万台レベルで互いにシェア争いをする3強に対して、ビアンテの販売台数は2008年以降のモデルライフを通しても月間平均2000台以下、最近では3ケタにとどまっていたという。

まあ、完全に3ナンバー幅になる全幅とか、収納できないサードシート(荷室を最大化するときはロングスライドで前方に追いやるタイプ)、あるいはこの種のワンボックスでは異例に低いフロントシートから階段状に上がっていく独特のシートレイアウト、良くも悪くも個性的なスタイリング……など、ビアンテはワンボックスの王道というより、どうしてもカルト路線にならざるを得ないのは明白だ。これら独特のパッケージやスタイルは、ビアンテが先代アクセラのプラットフォームをベースとしていることの宿命でもあるが、ビアンテの価格や室内空間などの商品力を考えると、カルト好きの私なんぞは「いくらなんでも、もう少し売れてもいいんじゃないの?」と思ったりもする。

ただ、昨年追加された特別仕様の「グランツ」などは、明らかに既存デザインより一般ウケしそう……と外野の私は思うのだが、実際の売上はグランツ追加後も主力はあくまで既存モデル。だから、今回のマイナーチェンジでもグランツ一本化にはならなかった。……といった現状から考えるに、ビアンテはすでに「普通っぽいのだけは、とにかくイヤ!」という変わり者(?)に支えられる真正カルトカーへの道を邁進(まいしん)しているようにも見える。

5ナンバー枠をゆうに超える全幅の持ち主だが、技術者いわく「ミラーを含めた全幅はライバル車とほぼ同じなので、取りまわしやすさは同じのはず」とのこと。
5ナンバー枠をゆうに超える全幅の持ち主だが、技術者いわく「ミラーを含めた全幅はライバル車とほぼ同じなので、取りまわしやすさは同じのはず」とのこと。
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特別仕様車からカタログモデルに“格上げ”された「グランツ」の特徴は、なんといってもこのフロントマスク。
特別仕様車からカタログモデルに“格上げ”された「グランツ」の特徴は、なんといってもこのフロントマスク。
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横に長いセンターメーターが特徴的なインパネまわり。「グランツ」の加飾パネルにはヘアライン模様が施されている。


    横に長いセンターメーターが特徴的なインパネまわり。「グランツ」の加飾パネルにはヘアライン模様が施されている。
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今回の改良により、両側電動スライドドアは全車に標準装備となった。
今回の改良により、両側電動スライドドアは全車に標準装備となった。
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不快感のない自然なロールだが……

もちろん、マツダは今回のスカイアクティブ投入で、そうしたカルトな現状に風穴があくことを期待している。前記3強の担当者は「このクラスの購買者の大半は、最終的にどれを買うにしても、ほか2車種も子細にチェックして冷静に比較検討する傾向が非常に強い」と口をそろえる。ビアンテそのものの内容や商品力を冷静に考えれば、3強との比較対象の俎上(そじょう)にさえのぼれば、そこからビアンテを選ぶ人たちが一定数いても不思議ではない。
なのに、ビアンテが月間3ケタ台数にとどまっているのは「そもそも、このクラスの購買層に認知されていない」のが最大原因といっていい。実際、マツダ自身もそう考えている。その意味では「スカイアクティブ」「セレナS-HYBRIDに迫る燃費」「エコカー免税」といった分かりやすい武器を得た新しいビアンテに期待したい気持ちは痛いほど分かる。

もっとも今回のマイナーチェンジは、パワートレイン刷新という技術的には大手術が敢行されているものの、エンジンそのものは従来同様の2リッター自然吸気。そのほかは細かいシートアレンジの手直しや装備の見直し程度で、シャシーチューンも変わっていないという。だから、今回のように横浜付近の市街地や都市高速をチョイ乗りする程度では、基本的な乗り味に大きな変化はない。

パワートレイン自体のチューニングは、同じく非スカイアクティブ・プラットフォーム(「CX-5」や「アテンザ」のようなフルスカイアクティブ車に対して排気系スペースに余裕がない)のプレマシーと数値的には同様。変速機のレシオもプレマシーと変わりない。活発とまではいえないが、日本の交通環境で日常生活や家族での休日ドライブには必要にして十分……というのは、このクラスに共通する性能である。クラス平均で特に速くもないが遅くもない。

ボディー全高はライバル同様に高いが、運転席だけは低い……という独特のパッケージもあってか、ビアンテのシャシーチューンは発売当初からけっこう積極的にロールさせる(かつ、ロールがドライバーの不快感や不安感につながりにくい)タイプで、基本的なテイストは最新型でも変わらない。
ボディーの自然な動きを拒否せずに荷重移動を生かすシャシー思想は、最新のスカイアクティブにも受け継がれている。ただ、ステアリングの切りはじめからペタンと動くロールスピードの速さは、正直なところちょっと古さを感じなくもない。荷重移動が素早いのでドライバーにとっては俊敏で活発に感じる操縦性で、その気になるとそれなりに楽しいが、ファミリーミニバンとしてはちょっと動きすぎる気がする。

シート表皮はファブリックのみの設定。内装色はブラックのほか、ベーシックな「20C」にはベージュも用意されている。
シート表皮はファブリックのみの設定。内装色はブラックのほか、ベーシックな「20C」にはベージュも用意されている。
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3列目へのウオークスルーを可能にする横スライドや、753mmにおよぶ縦方向のロングスライドなど、2列目シートの多彩なシートアレンジは健在。
3列目へのウオークスルーを可能にする横スライドや、753mmにおよぶ縦方向のロングスライドなど、2列目シートの多彩なシートアレンジは健在。
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荷室のアレンジは2列目、3列目シートのスライドが主で、後席の床下格納や跳ね上げ機構などはなし。(写真をクリックするとシートアレンジが見られます)
荷室のアレンジは2列目、3列目シートのスライドが主で、後席の床下格納や跳ね上げ機構などはなし。(写真をクリックするとシートアレンジが見られます)
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2リッター4気筒直噴エンジンの仕様は、基本的に「プレマシー」や「アクセラ」などと共通。高い圧縮比による高効率が自慢だ。
2リッター4気筒直噴エンジンの仕様は、基本的に「プレマシー」や「アクセラ」などと共通。高い圧縮比による高効率が自慢だ。
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「グランツ」は高輝度塗装のアルミホイールを標準装備。タイヤサイズは前後205/60R16となる。
「グランツ」は高輝度塗装のアルミホイールを標準装備。タイヤサイズは前後205/60R16となる。
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6段ATはタイトな変速が魅力

ライバルとなる3強のトランスミッションはすべてCVTになっているのに対して、ビアンテのスカイアクティブの2ペダルは6段AT(商品名は「SKYACTIV-DRIVE」)である。

昨今の燃費志向CVTはとにかくエンジン回転を下げたがり、以前よりエンブレが弱くなってブレーキペダルに足がいく頻度が確実に高まっている。SKYACTIV-DRIVEのような最新鋭ステップATはどんどんロックアップ領域が広がっており、同時にCVTほど自由にギア比を上げる(=エンジン回転数を下げる)ことはできない。だから結果的に、最近のステップATはCVTとは対照的に、かつてのATより微妙なスロットル操作による速度微調整が利きやすく、総じて昔より運転しやすくなっている。「少しでもクルマが動き出せば、ほぼ全域でロックアップしていると考えていただいていい」と開発陣が説明するSKYACTIV-DRIVEは、フィーリング面では、特にタイトな変速が魅力である。

今回の試乗会では「あらためて当社自慢のスカイアクティブに乗ってみて!」と、スカイアクティブ車が勢ぞろいしていた。今もって日本では貴重な存在であるクリーンディーゼルの強力さと楽しさはいまさらここで説明するまでもないが、ハッキリ言ってエンジンフィールそのものはごく普通(失礼!)のガソリンエンジン車でも小気味いいテイストが味わえるのは、このSKYACTIV-DRIVEの恩恵が大きい……とあらためて思った。例えば「デミオ」のスカイアクティブ車も、タイトなステップAT(あるいはMTでもいい)が組み合わされれば、俊敏なシャシーともあいまって、ちょっとしたエコスポーツコンパクトになると思われる。

ただ、現在のデミオはスカイアクティブ世代への過渡期モデルだったため、アイシン・エィ・ダブリュ製のCVTが採用されている。現時点で市場投入されているSKYACTIV-DRIVEには2種類あるが、現状でガソリン車などに使われる許容トルク270Nm型がマツダ社内で“ミッドバージョン”、ディーゼルなどに適合する460Nm型が“ラージバージョン”と呼ばれている。この名前を見るに、当然のごとくすでにスモールバージョンの計画もあると思われ、次期デミオもしくは次期アクセラ(の廉価グレード)で初登場する可能性が高い。

(文=佐野弘宗/写真=河野敦樹)

トランスミッションには標準的なCVTではなく、独自開発の6段ATを採用。ロックアップ領域を広げることで、燃費の向上とダイレクト感のある走りを追及している。
トランスミッションには標準的なCVTではなく、独自開発の6段ATを採用。ロックアップ領域を広げることで、燃費の向上とダイレクト感のある走りを追及している。
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スカイアクティブ・エンジン搭載グレードには、センターメーターに運転のコーチング機能「i-DM(インテリジェントドライブマスター)」が備わる。
スカイアクティブ・エンジン搭載グレードには、センターメーターに運転のコーチング機能「i-DM(インテリジェントドライブマスター)」が備わる。
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スカイアクティブ技術の導入第1号車として、2011年にデビューした「デミオ 13-SKYACTIV」。トランスミッションは6段ATではなく、他のグレードと同じくCVTを搭載していた。
スカイアクティブ技術の導入第1号車として、2011年にデビューした「デミオ 13-SKYACTIV」。トランスミッションは6段ATではなく、他のグレードと同じくCVTを搭載していた。
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テスト車のデータ

マツダ・ビアンテ グランツ-SKYACTIV

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4715×1770×1835mm
ホイールベース:2850mm
車重:1660kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6AT
最高出力:151ps(111kW)/6000rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/4100rpm
タイヤ:(前)205/60R16 92H/(後)205/60R16 92H(ダンロップ SPスポーツ230)
燃費:14.8km/リッター(JC08モード)
価格:259万8750円/テスト車=284万250円
オプション装備:消臭天井+クリーナブルシート+リアヒーター+「ナノイー」ディフューザー+アレルバスター搭載フィルター(6万3000円)/オートライトシステム+撥水機能(フロントドアガラス/ドアミラー)+感度調整式レインセンサーワイパー(フロント)(2万6250円)/サイドカメラ+バックカメラ+6スピーカー(5万7750円)/SRSエアバッグシステム(フロント/セカンド/サードシート用カーテンエアバッグ+フロントサイドエアバッグ)(9万4500円)

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
 

佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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