新成人の一部が、ど派手な衣装を着ることで知られる北九州市の成人式が10日、北九州メディアドーム(同市小倉北区)で開かれた。今年もカラフルな羽織袴にリーゼントをキメた男性や、花魁(おいらん)姿の女性が会場周辺にあふれた。その「ど派手」ぶりは聞きしに勝るものだった。
「目立ちたい。派手なことしたいけんね」
式典が始まる1時間前の午前10時半ごろ。メディアドーム周辺は、色とりどりの若者でいっぱいだった。羽織に真っ赤な襷(たすき)、金色に輝く巨大な扇子を手にした男性の集団がいた。胸元をあらわにした花魁姿の女性の姿も目に飛び込む。
目をこらすと、結った髪に人形を盛った女性もいた。聞くと、米国の有名歌手「レディー・ガガ」をイメージしたという。
缶ビールはもちろん、焼酎や日本酒、ワインをがぶ飲みする。周辺はさながら宴会場だった。
「コクラ(小倉)! コクラ!」「トバタ(戸畑)!トバタ!」
出身地だろうか。市内の地名を連呼し、気勢を上げる集団もいた。マスコミのカメラマンにポーズをとりながら、撮影するよう迫る若者も多い。
意を決して、新成人に話しかけた。
「とにかく、目立ちたい。派手なことをしたいけんね」
新成人の永元裕也さん(20)は、快く取材に応じてくれた。
名前や地区が印刷された旗や、そろいの衣装代として10万円程度を用意した。「お金に余裕はないけれど、多少無理をしても、しっかりやりたい。自分たちにとって、成人式は特別なイベント」と語った。
別の集団にカメラを向けたところ、記者自慢の口ヒゲが目にとまったらしい。「カメラのおっさんのヒゲ、茶色いぞ!」「茶色!」「茶色!」。拡声器でコールが始まってしまった。
花魁姿の女性に声をかけた。北原侑季さん(20)は「カワイイから、この格好が好き。変わったこともしてみたかった」と笑顔で、友人と記念写真を撮影していた。
なぜかカメラを手にした高齢者もいる。着飾った新成人を見つけては、撮影を繰り返す。中には、しゃがみ込んだアングルから狙う強者も。その姿はコスプレ愛好者が集まるイベントで、撮影を楽しむ「カメラ小僧」のようだ。
こうしたど派手な成人式は十数年前から始まったという。北九州市小倉北区の貸衣装店「みやび」は例年、市外も含め千人前後の若者の注文に応じ、衣装を提供する。
「雷神のように小太鼓を背負ってみたい」「スパンコールをちりばめた白い着物がほしい」などの要望にも応えるうちに、沖縄や関西から注文が来るほどの有名店になった。
「日本一過激」「お祭り騒ぎ」「DQN(ネット用語で非常識な人)がいっぱい」
北九州市の成人式の様子は毎年、ネットで話題となる。このありさまに眉をひそめる地元の人も多い。市は今回、新成人に「きちんとした服装」で参加するよう、異例の呼びかけをしたが、会場周辺を見る限り、呼びかけの効果はなかったようだ。
周辺には警戒の警察官の姿も目立つ。「今日はもう、何もしませんから」。ある新成人が気軽に声をかける。警察官は「当たり前だ!」とすかさず応じていた。
「式典の邪魔しないなら、別に」
ただ、周辺に比べると、式典が行われる会場内は驚くほど静かだった。周辺で騒ぐ新成人は、会場内には立ち入らないからだ。混乱もない。
大阪の大学に進学し、この日のために帰省したという吉岡一さん(20)は、新調したスーツで参加した。「派手な格好の同級生もいました。自分はあんな風に騒ごうとは思わないけれど、式典の邪魔をしたりしないなら、別によいと思う」と語った。
式典を担当する北九州市青少年課によると「毎年、派手な衣装で会場の外で騒ぐ人もいるが、同窓会気分で、会場周辺で知人に会って満足するのでしょう。把握している限り、式典を妨害するなどのトラブルはない」という。
全国各地では「荒れる成人式」が問題となった。だが、北九州市では、会場周辺に集まった若者は、大騒ぎはするが、会場内で行われている式典の邪魔はしない。はめを外して目立ちたい若者も、真面目な若者も、成人式を楽しむ。そんな不思議な棲み分けが北九州にあった。
(九州総局 中村雅和)