中高生のための国民の憲法講座

第27講 「国民の三大義務」の不思議 八木秀次先生

 日本国憲法の「国民の三大義務」について考えてみましょう。(1)保護する子女に普通教育を受けさせる義務(26条2項)(2)勤労の義務(27条1項)(3)納税の義務(30条)-これら3つを「三大義務」と呼んでいます。(1)は普通教育(現在は小・中学校の教育)を子供に受けさせる親など保護者の義務で、小・中学校の教育を義務教育と呼びます。

◆「勤労の義務」の理由

 この一見して誰も疑問に思わない三大義務ですが、この3つが憲法に規定されているのは、他の国の憲法と比較すると異例のことなのです。義務教育と納税の義務は他の国の憲法も決まって規定しています。問題は勤労の義務の規定です。

 実は、現在の我が国のように自由と民主主義に立脚する体制をとる国の憲法に勤労が国民の義務として規定されているのは異例なのです。

 勤勉を尊ぶ国民性もあって「勤労の義務」に疑問を持つ人は少ないかもしれません。しかし、自由主義の体制では、納税の義務が規定されればよく、どのように収入を得るかは自由でなければならないからです。

 勤労の義務の規定はもともと社会主義国の憲法に特有のものです。この規定は現在のロシアがまだ社会主義体制であった頃の憲法、1936年のいわゆるスターリン憲法から持ち込まれたものなのです。

 スターリンとはロシア革命を起こしたレーニンが亡くなった後にソ連の指導者になった政治家です。そのスターリン憲法(ソビエト社会主義共和国同盟憲法)の第12条に次のような規定があります。

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