ガリガリ君、ソニー…「老舗ブランド」常識破り再点火
ブランド・ジャパン2014
「最近、あまり冒険をしていないんじゃない?」
本調査で昨年の65位から14位へと、驚異的なランクアップを遂げた赤城乳業の「ガリガリ君」。躍進の背景には、流通関係者から受けたこんな"挑戦状"に真っ向から戦いを挑んで開発した商品の存在があった。
その商品とは、「ガリガリ君リッチコーンポタージュ」だ。
2012年9月に発売したが、売れ過ぎで供給が追い付かず、わずか3日で販売を休止。生産体制を増強して2013年3月に再発売すると、多くの消費者が"幻の商品"を求めて店に押し寄せた。
流通関係者から売られた「ケンカ」
ガリガリ君は、1981年誕生のアイス菓子。製造・販売する赤城乳業は1961年創業で、「あそびましょ」をモットーにしており、以前から「ラーメンアイス」「イクラ丼アイス」など、奇抜な商品を数多く世に送り出してきた。
そんな同社にとって、冒頭のような流通関係者の「冒険していない」という声はまさに衝撃だった。「ケンカを売られて黙っていられなかった」と、マーケティング部の萩原史雄次長は語る。
「スープ味のアイス」というアイデアに、社内からは「ちょっと冒険をし過ぎなのではないか」といった声が出た。だが、「普通のことが嫌い」と萩原氏が語る井上秀樹社長の「ゴーサイン」が出たことで、開発は進んだ。
「コーンポタージュアイス」発売の衝撃は、SNS(交流サイト)で拡散。同商品を溶かしてスープにする人まで登場するなど、アイスとは思えない異様な盛り上がりを見せた。2013年10月には、「ガリガリ君リッチ クレアおばさんのシチュー味」が発売され、こちらも話題に。2013年のガリガリ君の総販売個数は、過去最高となる4億8000万本を記録した。
日経BPコンサルティングが設立する「ブランド・ジャパン企画委員会」の監修。調査機関は日経BPコンサルティング。2013年11月6日から12月4日の間にインターネット利用者に対して、独自の調査システム(AIDA)を用いて、ブランドのポジショニングを明らかにする設問への回答を求めた。コンシューマー市場(BtoC)編の調査対象は、企業ブランド(企業名・グループ名)と製品・サービスブランドの合計1000。18歳以上の男女の調査対象者から回収数は3万4483。ビジネス市場(BtoB)編の調査対象は、企業ブランドのみ500ブランド。18歳以上の有識者からの回収数は2万3040。同委員会の特別顧問は、ブランド論の第一人者として知られる、米プロフェット副会長のデービッド・A・アーカー氏。
ガリガリ君人気の特異さは、本調査のデータからも垣間見られる。
本調査には、企業ブランドだけを対象にした「ビジネス市場(BtoB)編」と、企業ブランドだけでなく商品ブランドも対象に含めた「コンシューマー市場(BtoC)編」がある。ガリガリ君が14位にランクインしたBtoC編に関しては、「総合力」を決定する要素が、「フレンドリー(親しみ)」「コンビニエント(便利)」「アウトスタンディング(卓越)」「イノベーティブ(革新)」の4つに分かれる。「一般的に、食品や飲料は身近な商品が多く、フレンドリーやコンビニエントが高くなりやすい」とブランド・ジャパン企画委員会委員長で、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の阿久津聡教授は指摘する。
だがガリガリ君の場合、海外の高級ブランドが票を獲得することが多いアウトスタンディングや、主にIT(情報技術)企業が評価されるイノベーティブの要素が高い。ほかにはない独自性が消費者の琴線に触れたと言えそうだ。
「小ネタ」連打で心をつかむ
コーンポタージュ味の投入時に強力な口コミ力を示したガリガリ君だが、同社は決して能動的にウェブでの情報発信をしているわけではない。多くの企業が開設するSNSの公式アカウントはなく、「情報発信の主体はプレスリリース」と萩原氏は言い切る。
なぜ、"アナクロ"とも言えるプレスリリースを重視するのか。「拡散させようとすればするほど、わざとらしくなる」と萩原氏はその理由を語る。
そこで同氏が心がけているのが、消費者が勝手につぶやきたくなるような「小ネタ」を連打する戦略だ。
例えば、真冬の札幌で開かれた試食会、棒付きアイスには必要のないスプーン置き場の店頭への設置、会員組織を作って特典のないゴールド会員証を発行するといった具合。つい笑ってしまうようなものが少なくない。
小ネタでウケたものは継続し、新しいネタを足していく。実施した小ネタ(販促策)は、2011年には年100種類を突破、その後も毎年増え続けている。「生活の中に広く溶け込むことでブランドを想起させ、売り場へ誘引する。小ネタは単発では意味がなく、積み重ねが必要で、接触量がある閾値(いきち)を超えた時、消費者は動く」と萩原氏は語る。
2013年、地道に続けてきた小ネタの積み重ねと消費者の想像を大きく飛び越える新商品の登場で、ガリガリ君はブレークスルーに達した。
日本の「電機」、復活の光
「閉塞感の打破」。ガリガリ君と同様の理由で評価を高めたのが、日本の電機メーカーの代表格、ソニーだ。
同社は2005年の調査では総合力トップを取ったものの、2013年は22位と低迷していた。業績も2013年3月期こそ5年ぶりの黒字にはなったが、本格的な回復基調には程遠い。
そんな中、2014年2位と復活を遂げた理由について阿久津教授は、「『エレキのソニー』ブランド復活への期待を消費者が感じたのではないか」と推測する。原動力として挙げられるのが、カメラとスマートフォンだ。
「大胆かつ先鋭的な商品性。鮮烈な記憶に残るカメラ」。2013年5月、ソニーのコンパクトデジカメ(コンデジ)「サイバーショット RX1」は、こんな賛辞とともに「カメラグランプリ2013」の大賞を受賞。「コンデジは一眼に画質で劣る」という"常識"をひっくり返し、25万円という超高価格ながら、発売時には品切れ店が出た。
「最高画質を目指す上で、ほかに選択肢はなかった」と開発陣の一人が語るように、撮像素子には主にプロ向けの一眼で使われる35mmフルサイズCMOS(相補性金属酸化膜半導体)を採用。撮像素子は一般的なコンデジに比べて圧倒的に大きいが、レンズを本体に食い込ませて撮像素子すれすれに配置する独自構造を生み出したことで、実現にこぎ着けた。
「ソニーにしかできない、誰も作らなかったカメラを生み出さなければ未来はないという意識が強くあった」と、ソニーのUX・商品戦略本部・濱口努統括部長は語る。「売れる保証のない『25万円のコンデジ』という常識外れの企画が止められずに商品化まで達したことが驚き」と、他メーカーの技術者もソニーの思い切った策に舌を巻く。
支持を得たもう一つの要因が、スマートフォン「エクスペリア」の存在だ。
ソニーモバイルコミュニケーションズが2013年10月に発売した「エクスペリア Z1」は、ソニーのカメラ技術が惜しみなく投入されたモデル。2012年に就任したソニーの平井一夫社長が掲げる「One Sony」の「第1章」と銘打たれた企画で、モバイル部隊にソニーのカメラ技術者が企画段階から合流し、開発が進められた。
Z1のマーケティング戦略からは、同社の自信が透けて見える。
「ソニー、真っ向勝負」。Z1の発売に際し、米アップルを意識したこんな見出しが躍る「号外」風の広告が全国で配布された。従来なら、iPhone(アイフォーン)にブランド力で大きく水をあけられ、とても打ち出せなかった。だが、総力を結集して作り上げた自信から、ソニーは大胆な策に打って出たのだ。
一方、テレビCMでは、他社が「電池持ちの良さ」といった不満解消で競う中、カメラ機能だけを徹底的に訴求した。「『こんなに使いやすい』とうたうだけではスマホが単なる便利なデバイスと思われ、ブランドが陳腐化する」とソニーモバイルのマーケティング部・金子克之統括部長が語るように、エクスペリアは独自戦略を貫いた。
「リスクを恐れず、Kando(感動)をもたらす商品を創造する」──。
平井社長は、2014年米国で開催された家電見本市「International CES」の基調講演でこう語った。その思想の発露を、消費者は感じ取ったのかもしれない。「万人に売れるとは限らないものでもトライする、昔のソニーの姿勢が表に出てくるようになった」と調査会社BCNの道越一郎氏は変化を指摘する。"眠れる獅子"ソニーの本気に、「日本を代表するブランドとして応援する気持ちが表れた」と阿久津教授も語る。
「閉塞感」を超えて
「総合力」の順位は70位だが、2013年からの上昇ランクでトップに立ったのが、メッセンジャーアプリのLINEである。SNSでは、米フェイスブックの241位が過去最高であることを考えると、高い順位だ。LINEがここまで市民権を得るようになったのは、ライフラインとして存在感を高めているからだろう。
例えば、2012年末導入の「LINE@」は、商店などがユーザーに情報を配信できるサービス。従来、企業が公式アカウントを運営するには月額数百万円の料金がかかるのに対し、月額5000円程度から利用できるため、多くの中小企業や店舗が参入した。「知人間の"閉じた"ツールから、生活へ溶け込んだ存在を目指す」(LINEの舛田淳最高戦略・マーケティング責任者)という姿勢が、ほかとは異なる像を構築した。
LINEのような新勢力に加え、ガリガリ君やソニーという、いわば"古株"が躍進を遂げたことは、2013年の世相を象徴している。内閣府によれば、景気の現状を示す景気動向指数(CI、一致指数)は、2013年12月にリーマン・ショック前の水準まで急回復。「2020東京五輪」の開催決定も追い風になり、消費者心理は好転に向かった。ランキングには、閉塞感を打破しようと一歩踏み出した企業に共感する、前を向く消費者の姿があった。
(日経ビジネス 森岡大地)
[日経ビジネス 2014年4月21日号の記事を基に再構成]
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