野球・プレミア12、何とか大リーガーを呼べないか
スポーツライター 丹羽政善
本当にシーズンの疲れなのか? 故障が怖いのか?
21日に幕を閉じた野球の「プレミア12」。新設された国際大会とはいえ、予想以上の盛り上がりを見せ、それなりの成功を収めたといえるのではないか。大会前の冷めた空気も舞台を東京に移した頃には、一変していた。もちろん、日程の組み方などで不備も指摘されたが、それは第2回大会に向けての課題が明確になったと、むしろ好意的に捉えていい。
ただ、その課題のうちの一つ、大リーガーが参加しなかったという事実は、どうしても決定的なものを欠いたように映り、「世界一を決める大会」とうたったところで空々しかった。
■11月にプレー「OK」という選手も
なぜ、大リーガーを呼べないのか? 彼らが出ないとされる理由は、冒頭で触れたように大きく分けて2つある。
まずは、疲労だ。大リーグでは年間162試合に加え、過酷な移動が選手の体力を奪う。マリナーズの移動距離は年間約8万キロ。羽田と新千歳空港をおよそ半年間で50往復する計算である。よって大リーグでは、シーズンオフ、特にシーズンが終わって間もない頃は体をオーバーホールする時期という捉え方が一般的。疲れをためたままプレーすれば、故障につながりかねない。だから選ばれても参加したくない、という選手が出てくることは想定できる。
当然、その考えは尊重されるべきだが、その一方で、11月にプレーしても構わない、という選手がいるのも確かだ。
今年1月、プレミア12の参加問題について米ヤフー・スポーツの取材に応じた大リーグ選手会理事のジェレミー・ガスリー(ロイヤルズからフリーエージェント=FA)はこう答えている。「個人的には、ぜひ出たい。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に参加したが、素晴らしい体験だった。サルバドール・ペレス(ロイヤルズ)だって出るし、パブロ・サンドバル(レッドソックス)、エリック・アイバー(ブレーブス)、クリス・カプアーノ(ヤンキースからFA)だって、出たいって言うぜ」
実際、ガスリー、ペレスらは昨年の日米野球にも参加。彼らは昨年10月29日までワールドシリーズを戦い、11月6日にはロサンゼルスで行われたメジャー選抜チームの合同練習に顔を見せていた。疲れは大丈夫か?という懸念はあったものの、彼らは今季、見事に昨季の雪辱を果たし、ワールドシリーズを制している。
■選手より球団の方がケガを恐れる
対照的に不本意な1年を送った選手もいる。日米野球(阪神・巨人連合チームとの記念試合を含む)で2度先発し、2勝を挙げたカプアーノは今季、戦力外通告を受けるなど散々だった。となると、影響がないとも言い切れないが、それでも大リーグ機構が制限さえかけなければ、プレミア12に参加したいという選手は、ガスリーが言うように少なくないはずだ。
もっともその場合、チームがストップをかける可能性がある。ケガを恐れるのは選手よりむしろ各所属球団の方だ。高い年俸を払っているのにケガでもして、シーズンを故障者リストで迎えるようなことがあったら、どうするんだ?と訴えるに違いない。
ところが、球団側は4年に1度、2月から3月にかけて行われるWBCへの出場は許可している。また、むしろ故障のリスクでいえば、11月の方が低いともいえる。シーズン直前の3月にケガをされれば、開幕に間に合わなくなるかもしれない。その点11月なら、開幕まで余裕がある。例えば昨年の日米野球で、ロビンソン・カノ(マリナーズ)が死球で右足の小指を骨折したが、あれがWBCだったら……。
ただ実際には、11月にプレーすることを球団は認めている。マリナーズはこの秋、ジェームズ・パクストンという若い投手を秋季リーグに派遣した。今季は、開幕から先発ローテーション定着を期待されたが、故障で13試合しか先発できず、67イニングしか投げていないため、来季に向けてもう少し投げておこうという意図があった。
昨季、日米野球に出場したマット・シューメーカー(エンゼルス)は、その年16勝をマーク。チームがそんな投手の参加をよく許可したものだと思ったが、本人に聞くと「(メジャー、マイナー合わせて)160イニングぐらいしか投げていないから、『もう少し投げてこい』と言われた」と話していた。
■ウインターリーグ参加契約が参考に
先ほど触れたように、カノが日米野球で骨折したとき、オフシーズンの選手派遣に消極的なチームは、「それ見たことか」と自分たちの考えを正当化したはず。ところが、彼はその2カ月後、ドミニカ共和国のウインターリーグに出ていた。別にマリナーズやエンゼルスだけが特別というわけではなく、若い有望な選手を中米のウインターリーグなどに教育目的で派遣することは珍しくない。
実のところ、そこに大リーガーをプレミア12に呼ぶ、突破口があるかもしれない。
大リーグ機構と選手会の間では、ドミニカ共和国、プエルトリコ、メキシコ、ベネズエラで行われるウインターリーグの参加に関して、取り決めが交わされている。
2013年10月に交わされた5年契約の内容によれば、例えば40人枠に入っている2Aの先発投手の場合、シーズン中の投球イニングが139回までならウインターリーグに参加可能。打者はそのシーズンの打席数が552以下なら出場が認められる、という具合だ。その他にも故障者リストに入っていた期間の長さにより制限がかかるなどするが、それでも条件さえ満たせばメジャーリーガーでさえ参加が許される。
プレミア12を主催する世界野球ソフトボール連盟としては、ウインターリーグと同じような条件でもいいから契約を締結し、大リーガーを呼ぶための道筋をまずはつけるべきだろう。
ただその前に、大リーグ機構、選手会と同じテーブルにつき、周知を徹底させる必要がある。今回の大会に関して大リーグ機構は大リーグ選手枠(40人)に入っている選手の派遣を見送ったが、選手会と議論した形跡がない。記者に知らされるまで選手会理事のガスリーでさえ、大会の存在を知らなかったのだ。
■課題山積み、次回までに解決なるか
加えて、いくつか越えなければいけないハードルがある。1つは、開催地の問題。それがWBC同様、米国中心なら可能性はあるとガスリーは考えている。
次に、選手の保険問題。ケガをしてレギュラーシーズンを欠場した場合、チームへ保証するためのものだが、WBCの場合で1000万~2000万ドルになるそう。この資金をどう捻出するか。
さらに選手との下交渉も必要になる。そういうパイプがあるかどうかだが、第1回のWBCでは当初、多くの選手が参加をためらっていたが、昨季引退したデレク・ジーターが出ることになって、流れが変わった。大リーグ機構が口説いたともいわれているが、その効果は絶大だった。
仮に今なら、クレイトン・カーショー(ドジャース)が次のプレミア12に出たいとでも言い出せば、潮目が変わる。ジーターほどのインパクトはないかもしれないが……。
こうして考えてみると、疲労、故障への懸念が大リーガーをプレミア12から遠ざけたすべてとはいえず、裏には様々な課題が山積している。それぞれのハードルを19年の第2回大会までにクリアできるかどうかだが、逆にできなければ、日本国内でもプロの選手らが出る必要があるのかという議論に発展してもおかしくない。いや、今のようにどうせ大リーガーは来ないという空気が拭えなければ、遅かれ早かれその道をたどる可能性もある。
世界野球ソフトボール連盟が本気なら、今年1月に大リーグのコミッショナーを退任したバド・セリグ氏を顧問に招くぐらいの思い切った策が求められる。