「和製ボルト」世界ジュニアで金 陸上・飯塚翔太(上)
身長170センチ台の選手が多い日本の陸上男子短距離陣の中で、185センチ、体重81キロの飯塚翔太(23、ミズノ)はいかにも目立つ。堂々たる体格から、ついた愛称が「和製ボルト」。男子100メートルの世界記録(9秒58)保持者、195センチのウサイン・ボルト(ジャマイカ)に通じるスケールの大きな走りが特徴だ。
2010年の世界ジュニア選手権(カナダ)200メートルを20秒67で優勝、この大会で日本男子初の金メダリストとなった。鮮やかな世界デビューを機に成長し、中大4年の13年には100メートルで10秒22、200メートルで日本歴代3位(当時)となる20秒21をマークした。
■トレーニング見直し、尻の筋肉に重点
そこまでの歩みが順調だったから、昨年の低迷には悔いが残った。同年のベスト記録は100メートルが10秒41で、200メートルは20秒39。「良かったなと思うレースが一つもなかった」
不振の原因はトレーニングの仕方にあったとみている。13年11月から、重りを持つウエートトレーニングで膝を直角に曲げるやり方をしばらく続けたところ、走る際に接地で必要以上に膝が曲がってしまうようになった。結局、フォームの乱れは14年シーズンを通じて尾を引いたという。
その教訓もあり、今季はトレーニングを根本から見直した。重点的に鍛えているのが尻の筋肉。飯塚の体の癖のせいか、座った状態から立つ時などにまず太ももの筋肉が動き始めるため、太ももに過度な負荷がかかってけがにつながりやすい。実際、何度か肉離れをしている。体幹、尻、太ももの順番で動き出せば大きな力を発揮でき、けがもしにくい。
2月上旬に渡米し、シカゴのジムでみっちりトレーニングを積んだ。理学療法士らが作ったメニューに沿って、午前9時から午後6時まで、昼食や休憩を挟んで6時間以上を費やした日もある。中旬にはカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)に移り、暖かい気候の中で走り込んだ。
■焦らず歩み、リオ五輪で最高の結果へ
3月に右太ももを再び痛めたが、体幹と尻の強化がまだ道半ばだと分かっているから、悲観はしなかった。200メートルで21秒25に終わった4月の織田記念国際は、試合の感覚を養うことが主目的だったため予選と決勝の2本を走れただけで御の字。その後は今月3日の静岡国際で20秒95、10日のセイコー・ゴールデングランプリ川崎は20秒79と、けがの回復とともにタイムも上がり、6月の日本選手権、8月の世界選手権(北京)へ視界が開けてきた。
2日、バハマでの世界リレー大会男子400メートルリレーで日本が3位に入り、来年のリオデジャネイロ五輪の出場権を得たことに「すごい。僕も走ってメダルを取りたいなと純粋に思う」。12年ロンドン五輪でアンカーを務め、4位入賞(米国の失格で5位から繰り上がり)に貢献した飯塚は闘志を新たにしたはず。リオで最高のパフォーマンスをすべく、今は焦らずに歩みを進めている。
(敬称略)
〔日本経済新聞夕刊5月18日掲載〕