フィリピン大統領選、ドゥテルテ氏が当選確実
【マニラ=佐竹実】任期満了に伴うフィリピン大統領選挙は9日、投開票された。南部ミンダナオ島ダバオ市長、ロドリゴ・ドゥテルテ氏(71)が同日夜までに他の候補を引き離して、当選を確実にした。「犯罪者は殺害する」など過激な発言を繰り返す同氏を巡っては、かつての強権政治の復活を懸念する声も出ている。
選挙管理委員会が9日午後11時20分(日本時間10日午前0時20分)時点で発表した集計(開票率80%)によると、ドゥテルテ氏は39%を集めた。アキノ氏が後継指名したマヌエル・ロハス氏(58)が23%、グレース・ポー上院議員(47)22%、副大統領のジェジョマル・ビナイ氏(73)が13%と続いた。ポー氏は同日深夜、記者会見し自らの敗北を認めた。
高い経済成長に導いたアキノ大統領は憲法の規定で再選できず、10日にも判明する新たなリーダーが次の6年の経済・外交政策を決めることになる。ドゥテルテ氏は中国寄りの発言が多く、南シナ海を巡る安全保障に影響する可能性もある。
投票は前回の大統領選挙に続き、マークシートによる電子投票で行った。選管によると大きな混乱はなかったものの、約9万台の読み取り機のうち約150台で不具合が発生した。投票所などで投票を妨害するための殺人事件も発生し、AFP通信によると9日だけで10人が殺害された。
ドゥテルテ氏は、ダバオ市の治安を劇的に改善させた実績が評価される。大統領になっても犯罪者は殺害すると公言するほか、「6カ月で汚職をなくす」と述べており、強いリーダーシップに期待する有権者が多い。マニラの会社員女性(44)は、「暴言は良くないが、治安が良くなるならば賭けてみたい」と話す。
ここ数年の経済成長にもかかわらず格差や薬物汚染などの問題がより深刻になっている現状が、ドゥテルテ支持につながっている。ただ、法の支配を無視した殺人などの強引なやり方には批判の声が少なくない。アキノ大統領もマルコス長期独裁を念頭に「独裁者の復活を許してはならない」と話している。
南シナ海の領有権問題を巡る中国との争いにも影響が出かねない。ドゥテルテ氏はこれまで、「祖父が中国人だから中国と戦争はしない」と述べている。最近発表した外交政策の中でも、中国との対話の重要性や、南シナ海での共同資源探査を掲げている。
フィリピンは軍事力が弱いため、一国では中国と対峙するのは難しい。そのためアキノ政権は、米国や日本などとの同盟を深化することで、人工島造成やミサイル設置などの軍事化を進める中国をけん制してきた。ドゥテルテ氏が現政権と反対の立場を取れば、地域の安全保障にも影響しかねない。