中国国有大手、幹部交代相次ぐ 習指導部が反腐敗で人事権誇示
【北京=阿部哲也】中国で国有企業のトップ交代が相次いでいる。石油大手などに続いて、自動車大手の中国第一汽車集団と東風汽車公司も経営トップの董事長を入れ替える人事を発表した。習近平指導部が腐敗摘発を強める業種で幹部交代が目立っており、人事権を誇示して経営への統制・関与を強めたい意向が透ける。国有大手同士による大がかりな企業再編を探っているともされ、その布石との見方もある。
「第一汽車の首脳人事に関する党中央と国務院(政府)の決定を宣告する」。第一汽車が7日開いた緊急の幹部会議。共産党中央組織部から出向いた幹部がこう宣言すると、会場は一瞬ざわめいたという。党が新たな董事長として任命したのは、ライバル企業の東風汽車で董事長を務めていた徐平氏だったからだ。
徐平氏は東風汽車の前身である旧第二汽車出身だ。一貫して東風汽車の技術畑を歩んで頭角を現し、直近まで5年間も東風汽車の董事長を務めていた。第一汽車とは同じ国有大手ながら、生産や販売実績を競い合う仲だった。
3月中旬には、党中央規律検査委員会が第一汽車の徐建一・前董事長を「重大な規律違反と違法行為の疑い」で摘発した。以来、第一汽車にとっては空席になっていた董事長ポストだ。「これから大規模な合理化が始まる」。戦々恐々とする社内関係者は多い。
一方の東風汽車も6日には、第一汽車の元董事長だった竺延風・吉林省共産党委員会副書記を董事長に迎え入れる人事を発表した。これまで中国の国有自動車大手は生え抜きがトップに就くのが慣例だっただけに、異例の「たすき掛け人事」だ。
習指導部がここにきて大胆な人事刷新に乗り出したのには3つの背景がある。第1は経済分野でも自らの意向を強く反映させたいとの思惑だ。今回退職が決まった国有大手の前任トップの多くは前政権時代に任命された。「古い人材を刷新し、経済でも自らの政権運営の色を出す狙いが色濃い」(第一汽車関係者)との指摘は多い。
代表格が第一汽車の董事長になった徐氏だ。昨年には東風汽車トップとして仏プジョーシトロエングループ(PSA)と資本提携を実現させ、産業政策でも習氏と近いとされる。国有大手幹部も自らに近い人材で固めたいという狙いがのぞく。
第2は習指導部が党や政府の要職の人事権を掌握し始めたという事実だ。各社トップの人事権は党の専管事項で、中央組織部が管掌している。だがこれまでは党幹部や官僚と結びついた既得権層に阻まれ、思うように人事権が行使できなかった。
失脚した元最高指導部メンバー、周永康氏を核とする「石油閥」などが代表例だ。自動車大手は江沢民元国家主席に連なる「機械工業閥」とされる。習指導部はこうした「聖域」に「巡視組」と呼ばれる特別査察チームを送り込んで徹底した不正調査を進めてきた。
さらに国有大手を巡っては、中国石油化工と中国石油天然気、第一汽車と東風汽車が経営統合するといった噂が流れるなど、大型再編への観測が絶えない。国有企業の再編には「走出去(海外に打って出る)」と呼ぶ海外戦略を加速する狙いがある。国有大手同士の合併や統合で規模を大きくし、日米欧の競合大手に対抗していく考えだ。中国メディアによると「習指導部は現在112社ある国務院傘下の大型国有企業を40社にまで減らす」研究を始めたとされる。トップ人事と並行し、大がかりな事業再編を探っている可能性もありそうだ。