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20世紀の傑作オペラ「死の都」の日本初演

びわ湖ホールと新国立劇場が激突

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「死の都」(Die tote Stadt)という題名のオペラ、ご存じですか?

20世紀初頭のウィーンで「神童」と騒がれた作曲家、エーリヒ・ウォルフガング・コルンゴルト(1897~1957年)が23歳の若さで放った奇跡の大ヒット作である。

原作はベルギーの象徴派詩人、ジョルジュ・ロダンバックの小説「死都ブリュージュ」(1892年)。古都の片隅で亡き妻マリーの面影を追い続ける男パウルと彼女に生き写しのダンサー、マリエッタの愛憎劇を破格なまでに美しく、熱い旋律とともに描く。

20世紀冒頭に現れたウィーンの神童作曲家

日本では1996年に演奏会によって初演されたが、舞台初演は今年3月の滋賀県立劇場びわ湖ホールまで持ち越された。その数日後からは東京の新国立劇場でも別の演出が上演される。日本でもついに、名作の仲間入りを果たす時がきた。

コルンゴルトは父の音楽評論家、ユリウスの下で早期英才教育を受けた。作曲の師のアレクサンダー・フォン・ツェムリンスキーがオーケストレーションを手伝い、11歳で書いたバレエ音楽「雪だるま」はウィーン宮廷歌劇場(現在の国立歌劇場)で総監督のグスタフ・マーラーがハプスブルク帝国最後の皇帝、フランツ・ヨーゼフ1世臨席の御前演奏を指揮した。16~18歳で作曲した最初のオペラ、喜劇「ポリクラテスの指環」と悲劇「ヴィオランタ」の2本立てはイタリアの大作曲家ジャコモ・プッチーニに絶賛された。オペラ作家への道を確かにしたコルンゴルトが渾身(こんしん)の力をこめ、創作に取り組んだのが「死の都」である。台本作家として「パウル・ショット」の名があるが、主人公パウルと、楽譜出版社ショットをかけた偽名。実際にはコルンゴルト父子が共同で執筆した。

ロダンバックの小説はフランス語で幻想的な雰囲気とともに展開し、最後はパウルがダンサーのマリエッタを殺してしまう。ドイツ語のオペラ台本を書くに当たり、コルンゴルト父子は幻想のベールをはいだ。深層心理の分析により当時のウィーンでもてはやされた精神科医、ジークムント・フロイトの手法も参考にしながら殺人までの物語の大半をパウルの夢の中とし、最後は喪失感を克服しブルージュを出るハッピーエンドに置き換えた。

 世界初演は1920年12月4日。オペラ作家の将来を確約されたウィーン青年の新作は争奪戦となり、エゴン・ポラーク指揮ハンブルク歌劇場とオットー・クレンペラー指揮ケルン歌劇場が同日に初演するとの異常事態に至った。

世界に広まった「マリエッタの歌」

ふたを開ければ、大成功だった。第1次世界大戦で痛手をこうむり、ハプスブルク帝国終焉(しゅうえん)の衝撃も生々しい当時の観客は、失われた時代の美意識をたっぷり歌い上げつつ、再生への強い意志を訴えるコルンゴルトの音楽とドラマに深く共感した。

特にオペラの幕切れ、パウルが力強く歌う「この世に死者がよみがえることはない」(hier gibt es kein Auferstehn)の歌詞は、当時の時代精神を卓抜にとらえていた。

地元ウィーンでは初演からわずか2年間に、60回以上も上演された。ソプラノの「マリエッタの歌~私に残された幸せは」、バリトンの「ピエロの歌」など、美しく憂いに満ちたいくつかのナンバーはジャンルを超えた「ヒット曲」として、世界に広まっていった。

38年。ドイツのナチス政権がオーストリアを併合したことでユダヤ系のコルンゴルトの運命は暗転、新作オペラ「カトリーン」の初演は中止に追い込まれた。たまたま34年以降、ハリウッドで続けてきた映画の仕事に専念する形で米国へ亡命した。「死の都」で発揮した華麗なオーケストレーション、あふれる旋律美の才は映画音楽にも生かされ、「ロビンフッドの冒険」でアカデミー賞を受けた。コルンゴルトは「ナチスのヒトラー政権が倒れるまで、純音楽作品を封印する」と決めていたが、映画音楽に使った素材を純音楽に転用できる権利をワーナーから確保していた。

第2次世界大戦の終結、ドイツ敗戦で欧州へ戻り純音楽復帰を目指すが、再起は果たせなかった。映画音楽への偏見、前衛音楽に向かうトレンドとの対比で押された「時代遅れ」の烙印(らくいん)……。背後には戦時中、ハリウッドで裕福に暮らしていたことへの妬みもあったという。失意のコルンゴルトはハリウッドに戻り、60歳で亡くなった。55年に「死の都」がドイツのミュンヘンで戦後初の上演に成功し、「これから」の時だった。

ルネサンス(復権)は70年代に始まった。次男のジョージ・コーンゴールドが72年にRCAのプロデューサーだったチャールズ・ゲルハルトを指揮者に立て、父親の映画音楽集をロンドンのレコーディング用オーケストラ、ナショナル・フィルと録音したLP盤「シー・ホーク組曲」が世界で大ヒットした。68年に欧米、日本などで吹き荒れた学生運動の嵐が戦後社会の価値観を揺さぶる一方、行き過ぎた前衛芸術から大衆が離れていく中、ジョン・ウィリアムズらハリウッドのシンフォニックな映画音楽の元祖で、クラシックのオーケストラ演奏会でも十分な魅力を放つコルンゴルトに、人々は忘れていた美を再発見した。

ゲルハルトはニューヨーク・シティオペラが72年、マリー&マリエッタを創唱したマリア・イェリッツァらの臨席で「死の都」の復活上演を成功させた事実にも注目。歴代の上演で慣習的にカットされてきた部分もすべて復活させた「史上初の完全全曲録音」を作曲家と同じくウィーンから米国へ亡命したユダヤ系指揮者、エーリヒ・ラインスドルフとミュンヘン放送管弦楽団、ルネ・コロ(パウル)、キャロル・ネブレット(マリー&マリエッタ)ら超一流のメンバーで制作した。今もって最高の名盤だ。

 80年代には欧州各地の歌劇場、音楽祭がこぞって「死の都」に挑む。

演奏会での日本初演は井上道義が指揮

中でも83年、まだ「西ベルリン」だった時代のベルリン・ドイツ・オペラでゲッツ・フリードリヒ総裁が自ら演出し、妻のカラン・アームストロング(マリー&マリエッタ)やジェイムズ・キング(パウル)ら輝かしい声、美しいドイツ語を兼ね備えた米国人のワーグナー歌手を起用、オペラの巨匠ハインリヒ・ホルライザーに指揮を委ねた強烈な上演はドイツ語圏でのコルンゴルト復活を決定的にした。当時の自由ベルリン放送協会(現rbb)が劇場でセットを組み、入念に制作した映像は昨年DVD化され、日本でも輸入盤の扱いで手に入る。

欧米に遅れること十数年。日本では井上道義が96年9月8日に京都コンサートホールで京都市交響楽団を指揮、演奏会形式で初演した。マリー&マリエッタはソプラノの中丸三千繪、パウルはスロバキア人テノールのルトウィト・ルダーアだった。井上が同じコンビを起用して2001年9月13日、新日本フィルハーモニー交響楽団とすみだトリフォニーホールの東京初演を指揮した際も同じく、簡単な所作を伴うだけの演奏会形式にとどまった。後期ロマン派と呼ばれる豊麗な管弦楽の指揮を得意とする井上ならではの熱演だったが、文学を下敷きにした緻密な台本だけに、本格的な演出による舞台上演が長く待ち望まれてきた。

 待望の舞台日本初演は今年3月8、9日、滋賀県立劇場「びわ湖ホール」が担う。

88歳の栗山昌良が日本での舞台初演を演出

指揮は同ホール芸術監督、ドイツ・リューベック歌劇場音楽総監督を兼ね、作曲家として自ら台本も書いたオペラ「竹取物語」の初演(2013年1月18日、横浜みなとみらいホール)を成功させたばかりの沼尻竜典。今年1月に米寿(88歳)を祝った長老、栗山昌良が「最後の大仕事」の気構えで演出に挑む。

昭和の大演出家、千田是也らの教えを直接受けた栗山は「新劇」の論理的な演出手法をオペラに持ち込んだ先駆者。特に「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」はじめ、日本人歌手が西洋人のヒロインを演じるオペラ上演では杉村春子のブランチ(欲望という名の電車)、東山千栄子のラネーフスカヤ(桜の園)などが象徴する「紅毛(あかげ)物」の芝居で培ったノウハウを生かし、日本の観客に違和感のない視覚を創造してきた。マリー&マリエッタのソプラノは8日がイタリアオペラのヒロインで頭角を現した藤原歌劇団の砂川涼子、9日が京都大学心理学科卒業でOLから歌手に転じ、ウィーンと日本を往復する東京二期会の飯田みち代。2人の対照を栗山がどう描き分けるのか、興味は尽きない。

びわ湖の3日後、東京では新国立劇場による新演出の舞台が幕を開ける。ヘルシンキのフィンランド国立歌劇場が10年11月26日に初演したデンマーク人カスパー・ホルテン(現在はロンドンの英国ロイヤルオペラ・ディレクター)演出の舞台を借り、3月12日から24日までの間に5回上演する。指揮は同劇場で定評あるヤロスラフ・キズリング、パウルはトルステン・ケール、マリー&マリエッタはミーガン・ミラーと、なかなか強力な布陣だ。

ホルテンは新国立劇場の情報誌「ジ・アトレ」(13年9月号)のインタビューに対し、「死の都」を「20世紀オペラの最高傑作のひとつ」と評価、パウルの「思い出の部屋」にブルージュの街のパノラマが浮かび上がる舞台は「私がもっとも誇りに思っている演出だ」と述べた。ミッコ・フランクが指揮、カミラ・ニルンドのマリエッタ(歌だけが1人2役で、マリーは歌わない女優が別に演じる)、クラウス・フローリアン・フォークトのパウルと当代きっての美形歌手を起用した初演ライブ映像もすでにDVD化され、日本コロムビアが国内発売した。

「私の演出した時がフィンランドでの『死の都』初演に当たり、ほとんどの人がこの作品を知らなかった。ところが上演してみたら、だれもがすっかり夢中になり、13年の再演が決まった。日本の皆さんもきっと、その虜(とりこ)になると思います」。ホルテンの予想は「当たり」そうな気がする。

(電子報道部)


死都ブリュージュ (岩波文庫)

著者:G. ローデンバック
出版:岩波書店
価格:588円(税込み)

コルンゴルト:歌劇「死の都」全曲 [DVD]

演奏者:ジェームス・キング, カラン・アームストロング, ウィリアム・マレイ, マルギット・ノイバウアー
販売元:ナクソス・ジャパン

Die Tote Stadt [DVD] [Import]

演奏者:
販売元:BBC / Opus Arte

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