コーエーテクモゲームスから2015年2月19日発売予定のプレイステーション4、プレイステーション3、Xbox One、Xbox 360用ソフト『デッド オア アライブ5 ラスト ラウンド』。本作は、人肌の柔らかさを表現する“やわらかエンジン”を搭載していることでも話題を集めている。でもちょっと待ってほしい。やわらかエンジンという呼称で納得したつもりになっていないだろうか? やわらかエンジンだからこそ表現できるものとはなんなのだろうか? 疑問を抱えた編集部では、本作のプロデューサー、コーエーテクモゲームスの早矢仕洋介氏を直撃。「やわらかエンジンとはなんだ?」。この疑問を直球でぶつけてみた。

『デッド オア アライブ 5 ラスト ラウンド』“やわらかエンジン”とはなんだ? 早矢仕プロデューサーに直球インタビュー!_01
『デッド オア アライブ 5 ラスト ラウンド』“やわらかエンジン”とはなんだ? 早矢仕プロデューサーに直球インタビュー!_13

コーエーテクモゲームス
早矢仕洋介氏

 『デッド オア アライブ 5 ラスト ラウンド』プロデューサー。テクモ(当時)入社後、『デッド オア アライブ 3』からシリーズに携わる。現在は、コーエーテクモゲームスの開発チーム“Team NINJA”のリーダーとして、『デッド オア アライブ』シリーズや『NINJA GAIDEN(ニンジャガイデン)』シリーズのプロデュースを担当。

なにが“やわらか”なのか?

──“やわらかエンジン”という呼称は、『デッド オア アライブ 5 ラスト ラウンド』の記事中で必ず目にするようになりましたが、やわらかエンジンについて深く突っ込んでいる記事って、どこにもないんですよね。そのあたりが気になって本日インタビューをお願いしたのですが、直球でお聞きします! やわらかエンジンとはなんなんですか?

早矢仕洋介氏(以下、早矢仕) どういうテンションなんですか(笑)。では、全部ぶっちゃけてお話したほうがいいですよね?

──いちばん最初にやわらかエンジンという文字を見たときに「Team NINJAってそういうチームだった?」と思ってしまうくらいストレートにきたな、という印象があったんですね。

早矢仕 『デッド オア アライブ 5』のプロモーションでは言っていなかったんですけれど、いわゆるおっぱい、胸の表現を、開発の現場では“パイリアルエンジン”と呼んでいたんです(笑)。

──アンリアルをもじった感じですね(笑)。

早矢仕 その後、『デッド オア アライブ 5 ラスト ラウンド』をプレイステーション4、Xbox Oneで発売しようとなった際に、「ここ(胸の表現)には手を入れよう」とじつは最初から決めていたんです。せっかくの新世代機ですから、我々のプロジェクト企画書には、すでに「“パイリアルエンジン”をネクストにします」という説明は入っていたんです。実際に新世代機への移植が進んでいく中で、まずひとつは質感を上げていこうというのがありました。技術的なことを言うと、いままでテクスチャーなどで表現していた部分に対し「これは人肌っぽいよね」と思える表現を入れていくことにしました。新世代機になったことで汗をかいたりとか、水に濡れたりという表現、そして解像度が上がっていきますので、肌の表面の質感も向上させる必要があったんですね。つぎに胸揺れなのですが、これまでは胸を揺らしたときに、左右の胸が干渉してしまうという問題があったんです。胸どうしがぶつかったときの処理がしっかりできておらず、そうなると動きとして汚く崩れてしまうので、解決策として見えない壁を置いていました。ですので、これまでの作品ですと、キャラクターが横向きになったときに違和感が出てしまうんです。本当は胸が重ならないといけないのですが、制御しきれなくて……。見えない壁を置いているので、ふつうに揺らす場合はがんばっているんですけれど、挟むような動き……と言えばいいのかな?(笑) 胸の横方向への動きはキレイに表現できなかったんです。

──胸へのこだわりは並々ならぬものがあったんですね。

早矢仕 その質問に答えるには、『デッド オア アライブ』の胸揺れの歴史を語る必要があるんですが……いいですか?(笑) まず『デッド オア アライブ』の1作目は、とにかく胸が揺れていました。そのころは現在と比較すると非常に非力なマシンでしたので、簡単な物理演算で、つねに揺れ続けているような感じだったんです。ダウンしてもブルンブルンと胸が揺れていましたよね。シリーズを重ねるごとに胸揺れをリアルに表現しようというアプローチを試みてきたのですが、お客様からは「胸揺れがおとなしくなってきたんじゃないの?」という声が上がってきました。リアルになってきたぶん、胸揺れがおすまししてきた歴史があって。『デッド オア アライブ 5』でも、よりリアルにがんばっていこうという方向性はいままでのシリーズと同じだったのですが、2013年に発売した『デッド オア アライブ 5 プラス』では“胸揺れパラメーター”というオプション項目を導入したんですね。胸が揺れるのが嫌な人はまったく揺れないようにできますし、項目中の“レジェンド”を選択すれば1作目のような激しい揺れかたも楽しめるという。“レジェンド”は、あえていまこの時代にリアルな方向ではなく、とにかく揺れるようにするために追加したものです。

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▲『デッド オア アライブ 5 アルティメット』で話題を集めたレジェンドの胸揺れ。『デッド オア アライブ 5 ラスト ラウンド』でも胸揺れの設定は可能です。バインバイン!

──“レジェンド”はすごかったですね。胸が別の生き物みたいに跳ねていました。

早矢仕 シリーズの歴史上、リアルを目指してやってきたのですが、じつはお客様の期待に応えられたという側面はあまりなくて……。お客様に伝わりにくい部分ですし、単純に「もっと揺らせよ」というリクエストも多かった。そんな経緯があったので、『デッド オア アライブ 5 ラスト ラウンド』では「これだ!」と思えるものにチャレンジしたかったんです。いままで見えない壁でブロックしていたものを取り払って、胸と胸が当たる表現……。ちょっと古いですけれど“だっちゅーの”(※編集部注:グラビアアイドル兼お笑い芸人、パイレーツの持ちネタ。「だっちゅーの」というセリフとともに、腕で胸を挟んで谷間を強調する)ができるようにというのが目標でした。これは物理衝突表現をとることで実現したのですが、やわらかエンジンの特徴はもうひとつあって。じつは、いままでは影を細かく表現することができなかったので、胸の谷間表現はテクスチャーなどで描いてそれらしくしていたんです。でも今回はリアルタイムに細かく影が落ちるようになっているので、谷間の影が本当に表現できるようになっているんです。リアルタイムで影の形が変わるため、より立体的でありながら、質感もともなわせることができました。それに加えて胸を揺らす際にもととなるパラメーターも増やしたんですね。それこそ本当にたくさん(笑)。パラメーターを増やすことにより、これまでは胸といっしょに服も揺れ、服の固さを表現できなかったという問題をかなり改善できました。つまり、胸の下部分がビスチェのような固いもので支えられていた場合、下部分はあまり揺れず、上部分だけが激しく揺れるとか。さらに、胸の部分だけを揺らすパラメーターを衣装ごとに設定することによって、シースルーのような柔らかい素材のものは揺れるようになっています。

──ちょっと待ってください。衣装ごとに設定を変えているのですか?

早矢仕 1着ごとに設定しています(笑)。「男性が求めるリアルな胸を突き詰める」というテーマのもとに、そういった要素を全部入れていったのですが、これをお客様にひと言で伝えたいと思ったんですね。こういった仕組みを複雑に語るのではなく、簡潔にひと言でお客様に伝えたいと皆で考えていて……。ディレクターに聞いたら「これは“やわらかエンジン”と勝手に命名して、すでにテキストデータも作成・組み込みまでやっちゃいました」と画面を見せられて。そのときすぐにピンときたので、やわらかエンジンをそのまま採用したんです。私たちが目指してきたものって、触ったときにやわらかいと思える表現だったので、そういった感覚が想像できるようにしようと。ただ、自分がインタビューの中で「やわらかエンジン」と言うだけではお客様には伝わりにくいと思ったので、東京ゲームショウの直前に専用ロゴを作りました(笑)。結果、想像以上に受け入れていただけて、知名度も得ることができました。