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きょういく特報部2009

思い届くと気持ちいい! 「詩のボクシング」取り組み広がる

2009年11月9日

写真広島県立呉三津田高の詩のボクシング大会(楠かつのりさん提供)

 リング上で交わすのはパンチではなく言葉。自作の詩を朗読しあって判定で勝敗を決める「詩のボクシング」が高校を中心に学校現場に広がっている。リングに見立てた舞台で対決するスタイルで、校内大会を開く学校があるほか、部活で取り組む文芸部もある。来年宮崎県で開かれる全国高校総合文化祭でも大会が開かれる予定だ。

■自作を朗読して対決

 ジャッジ役が告げた。「お題はゴキブリ」

 今年6月、私立御殿場西高(静岡県)で開かれた「詩のボクシング」の校内大会決勝、2ラウンド目。ロープで囲まれたリングに立つ3年の大石翔君は、間髪入れずに言葉を発する。

 「あいつはいつも突然やってくる。食事をしている時、風呂に入っている時、歯みがきしている時、いつも突然やってくる」

 ラストまで一度も言いよどむことなく即興の詩を完成させると、「おー」というどよめきと拍手。判定で、優勝を決めた。

 今年で4回目になる全校の校内大会は、テレビで「詩のボクシング」を見てファンになったという土屋貴央教諭のアイデアで始まった。1年から3年まで、クラスの代表や希望者16人が参加する。

 「小論文や作文を書く時にも『こう書いておけばいいだろう』と誰かの意見で済ませていた生徒が、自分の頭で考えるようになった」。土屋教諭は教育効果を口にする。

     ◇

 「詩のボクシング」では、地方大会を勝ち抜いた出場者による全国大会も01年から開かれている。21日に東京で開かれる今年の全国大会には、大人に交じって6人の高校生が出場する。

 そのうちの1人は、広島県立呉三津田高(呉市)3年の中島竜希君だ。同校は生徒に表現力をつけさせようと、03年から総合学習の時間を活用して全校で「詩のボクシング」に取り組む。クラス単位で詩の創作や競技をし、代表による校内大会を開いている。その活動が評価され、今年の優勝者の中島君が特別枠で全国大会に招かれた。

 今年作った詩のテーマは「笑い」。何度も折り込んで野口英世がターバンを巻いたようになった千円札を出し、コンビニで怒られたいたずらなどを詩にした。中島君はふだんはおとなしく、朗読に没頭する姿をみた周囲は「あんなキャラだと思わなかった」と驚くという。

 指導する寺重理英子教諭は「スポーツが得意な子にとっての運動会のように、文章で表現するのが上手な子に活躍の場ができた。意外な一面に驚かされることも多い」と話す。

 全国大会の初戦で中島君と競うのは、宮崎県代表の私立宮崎日大高(宮崎市)2年、津貫志帆さん。やはり特別枠で招待された。

 津貫さんは今回、高校文芸部の県大会で優勝しての全国出場だ。実は、「詩のボクシング」をやるのはその県大会が初めてだった。本当は先輩が出る予定だったが、インフルエンザにかかったため、前日になって急に交代が決まったという。ほぼ徹夜で詩をつくったものの、決勝まで進むと手持ちの作品がなくなり、1ラウンド目から即興でよんだ。「自分の声が届いているのが分かって楽しかった」

 宮崎県では、県大会準優勝の県立高鍋高(高鍋町)2年、村上昌子さんも、全国大会の団体戦(3人一組)に九州チームの一員として出場する。同県では05年から県の高校総合文化祭で「詩のボクシング」の大会が開かれており、活動が盛んだ。来年は同県で全国高校総合文化祭が開催され、文芸部員による大会も計画されている。

 高知県からも、県立高知西高(高知市)3年の坂倉夏奈さん、私立土佐高(同)1年の松村侑君が全国大会に出場。兵庫県大会で評価された聖母被昇天学院高(大阪府箕面市)3年、溝口うららさんも出場する。

■小中学校でも

 学校での取り組みは、高校だけでなく小学校や中学校にも広がっている。

 筑波大付属小(東京都文京区)で国語を担当する青木伸生教諭は、授業に「詩のボクシング」を取り入れて10年近くになる。詩集を音読する。書かれた情景を思い浮かべる。そして創作する。こんな取り組みの中で、学期ごとにクラスで大会も開く。ジャッジ役も児童が務めるため、「聴く力」もついているという。

 青木教諭は「まずは子どもたちが素晴らしい詩をつくれるようになってから、と考えるとなかなか始められない」と言う。「気軽にやってみれば、意外に子どもたちは自分で表現する力を磨いていくもの。あまり勝敗にこだわらず、競技そのものを楽しめるようにすることも大事です」

■97年スタート 全国大会も

 「詩のボクシング」は、対戦する2人が交互に詩を朗読し、どちらがより観客の心に届いたかをジャッジ役が判定する。映像作家で「音声詩人」の楠かつのりさんが97年に「日本朗読ボクシング協会」を発足させ、独自のルールで始めた。翌年には作家ねじめ正一さんと詩人谷川俊太郎さんが対戦。擬音や言葉遊びを駆使した詩で会場をわかせ、知られるように。

 ルールは、選手が1ラウンド3分間ずつ自作の詩を朗読しあい、ジャッジが判定するというもの。16人のトーナメントで、決勝だけ2ラウンド制となり、2ラウンド目はその場でつくる即興詩で対決する。

 一般の人が参加できるトーナメント形式の大会は99年から始まった。各地の予選を勝ち抜いた代表による全国大会は今年9回目で、21日に東京都渋谷区代々木の全労済ホールスペース・ゼロで対戦する。ジャッジは作家の島田雅彦さん、漫画家のしりあがり寿さんらが務める予定だ。観戦は有料。問い合わせは日本朗読ボクシング協会(045・788・2979)。(星賀亨弘)

■高校生たちの詩(一部を抜粋)

「少年的夏休み」=宮崎日大高2年・津貫志帆さん

 〜理科のテストで出題された 1、りょうせいるい 2、はちゅうるい 3、ほにゅうるいを答えなさい という問題に いもり やもり タモリ と答えた 帰ってきたテスト用紙には 大きな花丸が付いていた 彼女は教室の片隅で小さくガッツポーズをした〜

「太陽と月」土佐高1年・松村侑君(高知県)

 〜太陽「ねえ月くん、今日はまっこと人がよう見に来ちゅうね。今日だけはちょっとゆっくりめにあるいてくれん?」 月「太陽くん、そりゃあなかなか無理なこと言うねぇ。わかった。できるだけやってみる」 アナウンサー「みなさん、太陽がずいぶん欠けてきました。遮光板をお持ちください」〜

「食パン」(即興)=御殿場西高3年・内藤もも子さん(静岡県)

 〜ご飯とおみそ汁 そして少しの牛乳 これが私の朝の源 元気の源 食パンが出てくることはあまりないけど 私はお母さんのつくった朝食が大好き 食パンには申し訳ないけど 私はお母さんがいっつも炊いてくれるご飯が大好き 食パンごめんね〜

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