日本学術振興会70周年記念行事「日本学術振興会の歩み」
平成14年5月12日

挨拶 皆様、本日は日本学術振興会創立70周年記念行事にご来会を賜り、誠にありがとうございます。
 本日は、野依先生にご講演をお願いいたしましたところ、大変お忙しい中、心よくお引き受けいただきました。厚く御礼申し上げます。
 また、記念講演会に続きまして、記念祝賀会も予定いたしております。
 皆様には是非記念祝賀会にもご出席いただきますようお願い申し上げます。
 さて、日本学術振興会会長といたしまして、日本学術振興会の70年の歩みを振り返ってみたいと存じます。
 日本学術振興会の創設は昭和7年にさかのぼります。
 昭和の初期は、いわゆる「昭和恐慌」と言われるように非常に厳しい時代でありました。
 この難局を打開するためには学術研究の振興が不可欠であるという認識のもと、櫻井錠二(さくらい じょうじ)帝国学士院長が中心となりまして、学術研究振興機関の設立運動が大きく動き出しました。
 この動きを受けて、昭和7年、文部省は財団法人「日本学術研究振興会」の創設に係る予算要求を行いましたが、当時の政府の財政は逼迫しており、調査費として、3万円が計上されるにとどまりました。
 このような事態を受け、天皇陛下より昭和7年8月20日、学術振興奨励のための基金として150万円の御下賜がある旨の「御沙汰」があり、この基金により同年12月、財団法人「日本学術振興会」が産声をあげることができました。
 日本学術振興会の創設によって、出発した事業には2つの大きな特徴があります。
 第一は、我が国ではじめての研究者個人の自由な発想による研究への大規模かつ組織的な研究費補助事業が開始されたことであります。
 それは、「研究費欠乏のために、従来苦悩に苦悩を重ねてきた我が学界が精神的に蘇った」と記された当時の記録からもうかがい知ることができます。
 第二としては、我が国ではじめて、重要課題について綜合研究を組織、推進する体制が整えられたことであります。
 それは、「官庁と言わず民間と言わず、学界と言わず、あらゆる方面又あらゆる地方の権威ある学者、技術者が各問題につきそれぞれ会合して意見の交換を為す」というものです。
 この産・学・官の英知を結集した綜合研究は、我が国の産業界における技術革新や医療の向上などに大きく貢献し高い評価を受けたのであります。
 また、振興会は、これらの事業のほか、「災害科学研究所」、「パラオ熱帯生物研究所」、「物理探鉱試験所」を持ち、官庁等からの委託研究なども実施しておりました。
 このように我が国の学術研究を支援してまいりました日本学術振興会にとって第一の変革期ともいうべき時がやってまいりました。
それは終戦を迎えた時期であります。
 日本学術振興会は、私的性格を有する学術奨励団体となり、その結果として、昭和22年度において学術振興会の予算の90%以上を占めていた政府補助金は、昭和23年度には打ち切られることとなりました。
 このような苦境の中で、財界・学界の多大な御配慮により、「日本学術振興会維持会」が設立され、その維持会の御支援などによって、振興会は引き続きその事業を実施することができたのであります。
 また、政府委託事業として学術出版などの事業も実施することとなりました。
 日本学術振興会の第二の変革である特殊法人化への動きは昭和30年代からであります。
 戦後、私的機関として位置付けられた振興会ですが、もちろん国家的学術振興機関の必要性が消滅したわけではありません。
 日本学術会議から「基礎科学の研究体制確立について」の要望を受け、文部省は、日本学術振興会を特殊法人として位置付け、従来の事業に新たに流動研究員やポストドクトラル・フェローシップに相当する奨励研究生などの事業を加え、昭和34年度の予算要求を行いました。
 このときは、特殊法人設立の要求は認められませんでしたが、流動研究員などの事業に対する補助金が認められ、日本学術振興会は再び我が国の学術振興の一翼を公的に担うこととなったわけでございます。
 しかしながら、学術振興会が本格的に我が国の学術振興重要施策を担うためには、特殊法人に位置付けられることが基本的に必要であり、以後、学術振興会の特殊法人化は学術政策の重要課題となりました。
 この特殊法人化への追い風となりましたのが、昭和36年の池田・ケネディ日米首脳会談であります。
 この会談で、日米間で科学協力事業を実施するということが定められ、日本学術振興会と米国科学財団(NSF)がその実施機関に指定されました。
 日米両国にとって、はじめての二国間科学協力であり、日本にとっては、はじめての本格的な学術国際協力事業でありましたが、学術振興会がその役割を担うことは特殊法人化促進への大きな要因となりました。
 そういう状況の中で、日本学術振興会の国際的信用を高める必要性が新たに加わり、各界の御支援が結実し、昭和42年「日本学術振興会法」が制定され、ここに特殊法人日本学術振興会が創設されたのであります。
 特殊法人としての発足当初は主として国際関係の事業を中心に、その発展が図られてまいりました。
 具体的には、欧米諸国等の学術振興機関と交流協定を結び研究者交流、共同研究、セミナーなどの実施を推進してまいりました。
 また、昭和51年からは、アジア諸国との学術事業を開始いたしました。
 特に、昭和53年から開始いたしました拠点大学事業は、学術振興会の国際事業の新たな発展の一つとなりました。
 さらに、昭和57年には、我が国の学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若手研究者を海外に派遣する海外特別研究員制度を創設いたしました。
 このように、国際関係を中心に事業の充実を進めて参りました学術振興会に、新たな展開をもたらしたのは昭和60年に開始した特別研究員事業です。
 この事業は、優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、自由な発想のもとに主体的に研究に専念する機会を与えるという観点から実施するということで、後に策定されました「ポストドクター等1万人支援計画」の中核的事業となり、学術振興会の事業の大きな柱として現在に至っております。
 また、同じ昭和60年には、私どもが事務局を務めております、国際生物学賞が創設されました。これは、昭和天皇御在位60年を記念し、陛下の長年の生物学に関するご業績を記念するということで設けられた賞であります。
 今年で18回を数える国際生物学賞は、生物学の分野においては国際的にも高い評価を得ているところであります。
 さて、平成の時代に入ってからの大きな発展は、学術振興のための研究助成事業の拡充であります。
 先ず、平成8年度に開始いたしました未来開拓学術研究推進事業がございます。
 二つ目には、文部科学省が行っております科学研究費補助金事業のうち基盤研究等にかかる種目について、平成11年度から学術振興会が執り行っている、ということでございます。
 未来開拓学術研究推進事業については、現在110の研究プロジェクトが実施されており、これらの中間評価及び事後評価を実施しているところであります。
 また、科学研究費補助金事業については、振興会が行うことにより、従来に比べ、よりきめ細かな審査を行うとともに補助金をより早期に交付することができ、研究者の皆様からも評価をいただいているところであります。
 このように、学術振興に関する事業を質・量ともに拡充してまいりました。
 現在の振興会の事業を見てみると、次のようになっております。
 先ず、研究費補助金事業ですが、科学研究費補助金については、年々その規模を拡充し、平成14年度の予算総額は1,700億円を数え、このうち日本学術振興会においては、審査・交付業務を行う基盤研究などのほか、審査を担当する萌芽研究、若手研究、特別研究員奨励費並びに学術創成研究費をも加えるとその予算規模は1,160億円になります。
 次に、研究者養成事業ですが、特別研究員、海外特別研究員及び外国人特別研究員として、平成13年度には約6,000人を採用していますが、今年度から、世界最高水準の研究能力を有する若手研究者を養成・確保する観点から、特に優れた若手研究者を特別研究員—SPDとして採用する新たな制度を創設しました。
 また、学術の国際交流の推進ですが、世界39か国1地域で71の学術振興機関と交流協定を結び研究者交流、共同研究、セミナーなどの援助を行っております。
 欧米諸国との交流は、従来、二国間交流が中心でしたが、今後はこれに加えて多国間交流も推進する予定です。
 また、アジア諸国との交流については、拠点大学方式による交流などを実施しており、これらを加えると世界各国との研究者交流の総数は、年間6,600名を超えるようになりました。
 学術の社会的協力・連携の推進事業は、振興会の創設当初からの歴史ある事業ですが、様々な変遷を経つつ今もなお活発に事業を行っており、現在57の産学協力研究委員会が活動をしております。
 なお、今年度文部科学省の新規事業として認められました21世紀COEプログラム事業につきましても、審査・評価についての事務を担当することとなりました。
 さて、これからの日本学術振興会でございますが、今まさに第三の変革の時期を迎えようとしているところでございます。
 皆様、御承知のように昨年12月に「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、日本学術振興会は独立行政法人として新たなスタートを迎えることとなりました。
 「日本学術振興会は独立行政法人とする」との閣議決定にあたっては、70年にわたり私ども日本学術振興会が果たして来ました学術振興への役割が正しく評価されたものと感謝いたしておりますが、本日、御来会いただきました皆様をはじめ、各界・各層の方々の常に変わらぬ御支援・御理解があったものと、ここに改めて思いをいたし厚く感謝申し上げます。
 日本学術振興会は、独立行政法人化という第三の変革期にあたり、学術の進展に寄与する、という大きな目的・目標に向かって進んでまいりたいと存じます。
 本日、多くの皆様の御来会を頂いて、このような報告が出来ますことを大変幸せに存じております。
 重ねて厚く、心より御礼申し上げます。
 何卒、今後とも御支援、御鞭撻を頂くことをお願い申し上げて、私のご挨拶とさせていただきます。
 どうも、ありがとうございました。