『椎名林檎 生林檎博’08 〜10周年記念祭〜』、さいたまスーパーアリーナ3デイズの最終日。デビュー10周年ということで、ソロの4作品からの歴代の曲たちを中心にやる、という趣向。で、特筆すべき演出とかいっぱいありすぎ。どう書こう。とりあえず、観ながらメモったこと、箇条書きにします。
●ステージは、白い宮殿からデコラティヴな装飾をとっぱらって無機質にしたような作り。なんだそれは。とにかく、壁。で、一面真っ白。その中央にギュッと固まってバンド=ギター名越由貴夫/ベース亀田誠治/ドラム河村カースケ智康。ステージ前方の、客席フロアと同じ高さに、ホーン・パーカッション・ストリングス等からなる、斎藤ネコが指揮する一大オーケストラ。アンコールの最後に流れた出演者・スタッフのクレジットによると、トランペット:村田陽一や、パーカッション:三沢またろうなど、錚々たるミュージシャンたちもその中に。そのオーケストラを取り囲む形で、輪っかみたいに、ステージの左右から花道が延びている。
●ステージ中央上空にどーんとでかいビジョン(画面)あり、ステージ両脇に、白い壁の1枚が開くと出てくるビジョンあり(時々出てくる)。日本語以外の曲の時は、それらの画面に訳詞が出る。あと、画面以外にも、その白い壁にワンセンテンスずつ訳詞が映し出されたりもする。それから、時折レーザー光線が飛びまくるなど、照明効果も豪華。
●椎名林檎の衣裳替えは4回か5回くらい。その度にヘアスタイルもチェンジ。登場時のそれが、特に強烈でした……なんて形容すればいいんだろう、あれ。ええと、銀色の鹿のツノみたいなのに、銀色の網が張り巡らされているみたいなオブジェが、銀髪の上にのっかっている状態。衣裳も銀でした。
●頭の5曲が終わったところで、「林檎の筋」という字がビジョンに現れ、デビューから現在までが、写真とナレーションによってふり返られる。その次は、14曲目のあとに「林檎の芯」という字が現れ、同じく写真とナレーションで誕生から中学ぐらいまでの生い立ちが流れるが、その二度目のナレーションは、彼女の小学1年生の息子さんでした。自ら「黒猫屋の若旦那」と名乗っておられました。名乗っていたというか、名乗らされたというか、長文のナレーションを、一心不乱に読んでいる感じ。なごんだ。いい演出。
●椎名林檎は、曲によって時々ギターも手に。あと9曲目“すべりだい”ではキーボードも。と思ったら、曲の後半、ステージ上の4人が立ってるとこだけぐるっと180度回転。続く10曲目“浴室”で、林檎、またキーボードに向かっているのかと思ったら、キッチンの流しに向かっている。手元がビジョンに大写しになる。包丁を持ってリンゴを切っている。そのまま、切ったり皮をむいたり叩くように刻んだりしながら1曲歌いきる。14曲目“ブラックアウト”では、バックの壁に時計の文字盤が現れる。ただ、数字が13まである。
●基本的に、ビジョンに移る椎名林檎の姿は、引きか、全身が入るくらいのカット。それも、背中ごしだったり斜めからのアングルだったりが多くて、あんまり顔が見えない。が、12曲目“罪と罰”で、ようやく顔がはっきり映る。そのあとは、わりと映っていました。
●16曲目“茎(stem)”から、女性ダンサー4人登場。21曲目(サンバのリズムなのです)とアンコールの一番最後の曲では、阿波踊りの人達も数十人登場。
●17曲目“この世の限り”は4thアルバムの曲で、兄・椎名純平とデュエットしている。というわけで、兄登場。その兄を呼び込むため、このライブで初めて、椎名林檎MCをする。で、二人で朗々と歌う。見事。続く18曲目(カヴァー曲)も二人でデュエット。
●さっきも書きましたが、21曲目“御祭騒ぎ”で、ダンサー4人に加え高円寺阿波踊り連合会のみなさんも数十人登場し、華やかに盛り上がり、続いて“カリソメ乙女”でドラマティックに本編をしめくくる。曲が終わった瞬間、ステージ最後方にいた椎名林檎、そのまま後方に身を投げ落下、ステージから姿を消す。
●アンコール2回目の1曲目、つまり25曲目は、1分足らずの短い、童謡みたいな曲。「処女作です」とMCしていたので、子供の頃、生まれて初めて作った曲なのだと思われます。
メモったこと、以上です。というわけで、それらの、さまざまに凝った演出はとてもよかったし、効果的だったんだけど、実はそれは二の次で三の次なライブだった。
何が圧倒的だったって、やっぱり、演奏そのもの、歌そのもの、楽曲そのもの。シンプルなバンド編成、決してシンプルじゃない大オーケストラ、となるとものすごく派手で抑揚の激しい演奏になりそうなもんなのに、全然そうじゃなくて全体にシンプルで控えめ、なのにすごく音として「効いている」、どの曲も。で、よくこんなの3日連続で歌いきったなと思うほどすさまじかった、椎名林檎の歌は。
これらの、ソロの椎名林檎の歌は、この3日間のような特別なライブでない限り、こうして人前で披露されることは、ない。東京事変では、やらない。“丸の内サディスティック”は東京事変でもやってるけど、そんなわずかな例外を除き、普段は生で聴けない。
なんちゅうもったいないことを。
というのは前からだけど、こうして生で、すばらしい演奏とすさまじい歌でもって聴くと、改めて強くそう思ってしまう。やればいいじゃん、東京事変でも。って、やっぱりやれないか。例えばザ・イエロー・モンキーが、ユニコーンがでもいいけど、もし再結成したとして、吉井や民生はそれまでのソロ活動の時期の歌を、バンドでやるか? やらないでしょうそれは。やると変でしょう。というのと同じか。待てよ。それはバンドからソロになった人の例であって、ソロからバンドになった人は……中村一義だ。中村一義は、ソロの頃の曲も、普通に100sでやっている。じゃあいいんじゃん。いや待てよ、あれはそもそも、ソロの曲をライブでやるために集まったバック・バンドが、だんだん本当にバンドになっていった例だから、「今日からバンドでやります!」と、ある時にはっきりと結成した東京事変と一緒にはできないか。でも……うーん、どうすれば、今ここで聴いているこの曲たちを、今後も生で聴けるんだろう。
というようなことを、グルグル考えながら観ていました。
それにしても、椎名林檎の曲ってオルタナティヴだなあ、と思う。時代のトップを獲った人だし、とんでもないセールスを記録した人だけど、今こうして生で味わうと、いわゆるJ-POP的というかヒットチャート的なメロディーとコードの構造を持った曲は、(僕の判断ですが)この26曲の中で3,4曲しかない。あとはすべて「ありえねえよ、こんなメロディ展開」「ええっそう進むの?」「うわ、そう始まってそう終わるの?」みたいな曲ばっかり。それをあんなに売って、今も10周年をさいたまスーパーアリーナで3日間もやって超満員にしてしまうのって、すごいことだと、改めて感じた。(兵庫慎司)
SET LIST
1.ハツコイ娼女
2.シドと白昼夢
3.ここでキスして。
4.本能
5.ギャンブル
6.宗教
7.ギブス
8.闇に降る雨
9.すべりだい
10.浴室
11.錯乱
12.罪と罰
13.歌舞伎町の女王
14.ブラックアウト
15.やっつけ仕事
16.茎(stem)
17.この世の限り
18.玉葱のハッピーソング
19.夢のあと
20.積木遊び
21.御祭騒ぎ
22.カリソメ乙女
アンコール1
23.正しい街
24.幸福論
アンコール2
25.未発表曲
26.未発表曲