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事例研究:東海大学医学部付属病院

2006/12/15
井関清経

 東海大学医学部付属病院は2005年9月に新病院が竣工、2006年1月5日から外来診療を開始した。徹底した現状分析と問題把握を行った上で、さまざまな仕組みやシステムを導入しているのが特徴。どのような考え方で新病院が設立され、新たな情報システムでどのような効果が生まれたのか。今回は、外来と手術に焦点を当てて紹介する。新設に主導的にかかわった同大基盤診療学系病院管理学助教授の田中豊氏ほかに話を聞いた(別掲のインタビュー記事も参照)。

スムーズですばやい診療を外来患者に提供

 神奈川県伊勢原市の高台に位置する東海大病院は救命救急センターを持ち、年間7000件もの救急搬送がある。徹底して急性期医療を目指し、在院日数の短縮と病床の高回転化を実現、旧病院よりも病床数を減らしながら収益性を高めた。

図1 銀行のATMと同様の行列方式であっという間に列が進む。フロアいっぱいに置かれていた会計待ちの椅子はほとんど撤去されたが、それでも座る人は少ない。

 同病院を訪れてまず驚くのが、会計窓口に並んでいる外来患者の列が短く、スムーズに人が流れていくところだ(図1)。これは、従来の病院のようにバックヤードで職員が計算業務を行うのではなく、医事会計システムにバッチ(一括)処理で取り込むことによって、すばやい会計ができるようになっているためだ。大部分の患者は診療支払機で支払いを済ませることができ、説明などを要する患者だけが窓口で精算するため、少ない待ち時間で支払いを終えることが可能となっている。最初はフロアいっぱいに用意してあった会計待ちの椅子は、会計事務が想定以上にスムーズだったため、少しずつ撤去している。わずかに残った現在の設置数でもまだ多いくらいだという。

図2 再診で予約が取れている患者は総合受付ではなく、直接、診療科の到着確認機に診療カードを通せばよい。

 来院から診察、会計までの外来診療のスムーズな流れは、病院設計の段階で外来患者の動線のシミュレーションを行うことで実現した。「来院される患者さんには、予約や再診で訪れる診療科が決まっている人と、どの診療科に行っていいかがわからない人に二分されます」(田中豊氏)。再診などで特定の診療科に行く患者は、各診療科にある到着確認機に診察券を入れることで受付が完了する(図2)。もちろん、すべてを機械任せにするのではなく、到着確認機の横には有人の受付があり、必要に応じて、患者に説明したり質問を受けるようになっている。

図3 消化器内科、消化器外科、内視鏡室はすぐ近くに配置されている。患者の動線を最短にする設計だ。

 消化器内科と消化器外科、内視鏡検査室など、関連のある診療科や検査室は隣接するフロアにまとめてあり、人の流れがスムーズになるようにしている(図3)。診察待合室ではスピーカーによる呼び出しをやめ、各診察室や受付制御コンピューターと連動した画像表示で呼び込みを行っている。待合室を囲むように診察室が並んでいるため、音声呼び出しを行うと騒々しくなりすぎるという。適切な空間設計とITの活用によって、静かで人の行き来が少ない病院を実現している。

統合された情報を共有可能な診療支援システム

 東海大病院では、診療支援システムとしてNECとともに開発した「NEOCIS」を導入している。このシステムは、診療効率を向上して患者の安全を確保するための「患者プロフィール」という機能を用意している。担当医が不在のときに患者さんが来ても、患者プロフィールを見ればこれまでの履歴を参照できる。放射線科などにオーダーを出すときにも、患者プロフィールを活用することでスムーズな診療が行える。

図4 外来診察室はどの科にも対応する。診察机は特注で、患者と医師の距離は適度に保たれ、双方が圧迫感を感じないようになっている。

 「患者プロフィールを設けたのは、外資系のシステム企業で履歴を残すような営業報告書の書き方を見たのがきっかけです。例えば、救急外来に来られた患者さんを以前診た医師がいれば、患者さんの情報を聞くことができます。そうすれば、患者さんやご家族に“知ってもらっている”という安心感を与えることもできますよね」と田中氏が言うように、診療科をまたいで情報を共有し、患者さんの全体像が見えるようにしているのだ。

 同病院では、これらの情報にスタッフごとの閲覧制限は設定していない。田中氏は「情報漏洩(ろうえい)の防止は服務規程によって縛るべきで、職性によって情報が見られないシステムは“医師が一番”という考えに基づいたもの。病院内の雰囲気も悪くなるので、なぜ見せてはいけないか、明確な定義が必要でしょう」とする。システム側で閲覧できる情報を制限しようとすると、強力なユーザー管理機能や退席中にシステムをシャットダウンする仕組みなどが必要になり、人の動きの多い病院では非現実的だという(図4)。

手術室はどの診療科のオペにも対応可能

 東海大病院の手術室は21室あり、基本的に全室が、あらゆる術式が可能でどの診療科でも利用できる“コンバーティブル”設計を採用している。

図5 東海大病院の第9手術室。中央にある手術台はロックをはずすと1人で移動できる。床が白いエリアはクラス100の清浄性が保たれている。

 標準的な手術室は7m×7m、最大の部屋で9m×9mで、すべて正方形になっている。最も清浄度の高い中央部は床が白く塗られており、外調機、床置コイルユニット、クリーンファンユニットによってクラス100を実現している(図5)。空調の通りをよくするために、無影灯は穴開きタイプを採用している。手術台はロックをはずせば簡単に動かすことができる自走タイプで、どの方向にも向けることができ、あらゆる術式に対応可能だ。設備の配置や動線については、病院設計時に実物大のモックアップまで作り、徹底したシミュレーションを行った上で構造設計を行った。

 手術室エリアに入るために靴やサンダルを履き替える必要のない「一足制」を導入している。これによって病棟看護師が手術台まで患者さんに同伴できる。患者さんの取り違えもなくなり、必要なら麻酔が効く瞬間まで担当看護師が付き添って患者を安心させることも可能になった。また、手術室エリアは自由に出入りできるので、術後ベッドを病棟の看護師が直接持ってきて廊下に並べておき、術後すぐに患者さんを載せて病室に帰ることができる。患者さんを受け渡す手間が省けるほか、手術室をすばやく空けて次の手術の準備を行えるようになった。

 各手術室にはノート型端末とプリンター、大型液晶モニターが用意され、術中にレントゲン画像やカルテを呼び出して確認できるようになっている。手術室の壁に設置された棚は、メスの替え刃など、共通で利用する物以外は置かないようにしているという。「その手術室でなければうちの科は手術ができない」といった占有を防ぐためだ。

進捗管理システムで手術室を効率的に運用

図6 手術室ごとの手術進捗状況を一望できる手術進捗ソフトの画面。遅れや変更は色の違いなどで示され、スタッフは一目で確認できる。

 手術室の効率的な運用に威力を発揮しているのが、手術進捗管理システムだ(図6)。これは、手術の申し込みシステムから情報を取り出し、各手術室の端末から、看護師が入室時刻や麻酔開始時刻などを入力していくもので、画面上で各手術室の進捗状況がひと目でわかるようになっている(図7)。

図7 手術室の配分は看護師などが相談の上、差配していく。

 このシステムの基になったのは、病院建設時に使われていたタワークレーンの運用管理システムだという。田中氏は、「新病院建設のような大規模な工事現場では、高額なリース料金を払ってタワークレーンを何台も使っています。タワークレーンを効率よく利用するため、工事の進捗状況に合わせてスケジュールを変更するソフトが使われていました。これを見たときに、イレギュラーなスケジュールに対応できることから手術室の進捗管理システムに流用できないか、と考えました」と語った。

図8 進捗ソフトの各手術室をタッチパネル上でクリックすると、カメラで手術の状況を見ることができる。手術室エリアだけでなく、イントラネットで接続された院内端末ならどこでも確認できる。

 画面上で各手術室にタッチすると、手術室内の映像が表示される(図8)。外科系の医師や看護師が見れば、手術の進捗を判断できるという。それを基に引き続いて行われる手術の“部屋割り”を変更したり、手術開始に時間がかかることを患者さんや家族に説明するのに役立てているのだ。

図9 中央手術室看護師長の上野正文氏。手術室エリアの案内をお願いした。

 進捗管理システム導入や最適化した構造設計によって、手術室の“運動性能”が上がり、高回転させることが可能になった。手術室の運用責任者である中央手術室看護師長の上野正文氏は、「今後は、手術の入れ替えの迅速化や、同じ術式の手術を連続して組むことで人・モノ・時間を効率化する手法を考えていきたい」としていた(図9)。

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