再送-〔焦点〕たばこ大手2社、「煙なき」戦いで火花 市場一変の可能性も

[東京 19日 ロイター] - たばこ大手2社が日本市場に、火を使わず有害物質が少ないとされる次世代のたばこを投入、「煙なき」戦いを繰り広げている。フィリップモリス・ジャパン(PMJ、東京都港区)が発売した加熱式たばこ「iQOS(アイコス)」は異例とも言える好スタートを切った。一方、最大手のJT は、異なる技術を用いた「プルーム・テック」を3月上旬に発売する。政府の規制で、いわゆる「電子たばこ」が普及しにくい日本で進化を始めた次世代たばこは、紙巻きたばこに代わる商品として、世界市場を一変させる可能性も秘めている。
<日本での成功、世界展開に弾みも>
「iQOS」は火を使わず、たばこ葉を電子機器で加熱するため、喫煙者の鼻や口から出てくるのは煙ではなく蒸気。煙が出ず、灰が出ず、臭いも少ないことから、周囲への悪影響も小さくなっている。
フィリップモリスでは、「iQOS」を「リスクを低減する可能性のある商品(RRP)」として位置付け、科学的実証を続けている。PMJのポール・ライリー社長は「紙巻きたばこに完全に取って代わる将来を思い描いている」と話し、全社的に注力する方針を示している。
名古屋で先行販売を開始した「iQOS」は、昨年9月に販売網を12都道府県に広げ、ネット販売も始まった。新製品は0.5%のシェアが取れれば成功と言われるたばこ市場で、今年1月末時点で東京都が推定2.4%、12都道府県で1.6%に達し、順調に拡大している。PMJによると、推定で10万人以上の成人喫煙者が紙巻きたばこから完全にiQOSに切り替えた。同社は、今年中に全国展開を予定している。
たばこ葉を蒸す方式の新型商品は「たばこベイパー(蒸気)」と呼ばれている。欧米で広がっている「電子たばこ」はニコチン入りのリキッドを使うが、日本ではニコチンが医薬品成分に指定されているため、厚生労働省の承認・認可が必要。新製品開発や市場投入のハードルが高い。
一方、「たばこベイパー」は、たばこの葉を使っているため、財務省の管轄。従来の紙巻き同様に扱えるため、日本では「iQOS」や「プルーム・テック」が新規のたばこ製品として主流となっている。
日本で成功すれば、「たばこベイパー」の世界展開に向けて大きな弾みとなる。ライリー社長は「日本におけるiQOSの成功は、この製品のグローバル展開を加速していくものと考える」としたうえで、現在の6カ国での展開から「16年末までに世界20カ国の主要都市で展開していきたい」と、積極的な展開計画を明かす。
<さらなる進化も>
対するJTは、2010年に発売した無煙タバコ「ゼロスタイル」が想定以上の反響を呼び、この分野での開発を進めるきっかけとなった。2013年の「プルーム」を経て、3月からは福岡市の約900店舗とインターネットで「プルーム・テック」の販売を始める。
従来の「プルーム」は、「iQOS」と同様にたばこ葉を加熱する商品。「プルーム・テック」は葉を加熱せず、葉が入ったカプセルを蒸気が通過し、たばこの味や香りが出るという異なる技術を用いている。現在「プルーム」は6カ国で販売しているが、日本では「プルーム」の販売を終了し、「プルーム・テック」に切り替える。
JTの小泉光臣社長は「5年先辺りを展望すると、たばこベイパー分野の伸びを非常に楽しみにしている。この分野に一層の販売促進投資をしていきたい」と語る。
ただ、JTでは「この分野は黎明期」(高橋正尚・EPマーケティング部次長)ととらえている。現状は「急いでマーケットを広げるのではなく、ここで得られる知見を次の製品にどうつなげていくかが大事」(同)というスタンスで、さらなる進化を目指す。PMIでも、他のRRPの開発も進めている。
<普及の鍵>
野村証券アナリストの藤原悟史氏は「喫煙人口が増えるわけではないため、どの程度の人が置き換わるかがポイント。まだ読み切れない」としながらも、「JTが本腰を入れてくれば、需要喚起になる。テスト販売で手応えが出てくれば、一気に攻勢に出るのではないか」とみる。
東京・飯田橋にある「トラベル・カフェ」。禁煙席には「iQOS ONLY」と表示されており、「iQOS」を吸うことができる。煙が気になり始めたiQOS利用者が禁煙席に入れることや、たばこを吸う人と吸わない人が、お互い我慢することなく同席することが可能となるなど、利用者のメリットは大きい。
2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向け、日本では飲食店や公共施設での分煙・禁煙問題の解決が大きな課題となっている。分煙・禁煙問題解決の選択肢のひとつとして「たばこベイパー」の利用に弾みがつく可能性もある。

清水律子 浦中大我

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