2010.10.04

官邸占領! 陰の総理・「赤い後藤田」仙谷由人 でござる

ブレる菅を2時間説教
永田町に「新・妖怪」現る 
つのまにか、並ぶ者のない圧倒的な権力者に

 「自分以外はすべてバカ」。彼はそう思っている。もちろん菅首相も例外ではない。宿敵・小沢一郎を追い落とし、もはや敵する者はいない。「仙谷支配」の幕開けだ。

「長妻は野党がふさわしい」

 菅直人首相が小沢一郎元幹事長を打ち破り、新内閣を発足させた当日のこと。

 勝者の陣営に属していながら、いきなり奈落へと突き落とされた人物がいる。厚生労働大臣をクビになり、党筆頭副幹事長に「降格」された長妻昭氏だ。

「いや、私はそういうのは全然、気にしないから。関係ないから。ある意味で、動きやすいというか・・・。政府じゃないけど、党改革でいろんなこともできるというか・・・。うん」

 目を泳がせながらそう語る長妻氏。「更迭」は寝耳に水だった。厚労相交代が明らかになった後、首相補佐官として官邸入りするとの噂も流れたが、それも結局潰れ、筆頭副幹事長へと左遷されることになった。長妻氏は動揺していた。

 民主党政権の人気閣僚の一人だったはずの長妻氏を、いともたやすく切り捨てた男。それが、仙谷由人官房長官である。

 長妻氏がなぜ飛ばされたのか、それは後述しよう。いずれにせよ、9月17日に発足した改造内閣において、菅首相は「何一つ」決めてはいない。大臣・副大臣・政務官の3役、党の各種委員長ポストから、今後の政策の方向性まで・・・。決めたのは、すべて仙谷官房長官だった。

 菅首相は小沢氏という強大な政敵を打ち破るため、反小沢派の担ぐ御輿に乗った。そして敵を斃すことには成功した。ところが気がつくと、自分が主であるはずの官邸は、別の人間に占領されていた。手足は糸に縛り付けられ、自由に動かすこともままならない。

 ではその糸を、裏で傀儡師のごとく操っている者は誰なのか―それこそが、仙谷氏その人である。

 魔物が巣くうという権力の中枢は、これまで数多の「怪物」を生み出してきた。権力の旨味を一度味わうと、容易にはその危険な誘惑から逃れられない。

 もとより、必死で己の地位を守り通した菅首相も、その虜となった一人である。しかし、菅首相は気がつくと、単なる使い走りレベルの存在に成り下がっていた。すぐ身近な場所で、怪物・小沢に匹敵する新たな「大妖怪」が誕生していたのだ。

 9月14日夜、菅と仙谷、両者の関係を象徴する場面があった。代表選勝利の余韻が残る中、菅首相は公邸において、仙谷氏とサシで向かい合っていた。早速、新政権の人事構想や、政策、国会運営を練るためだ。

「勝負がつけばノーサイドだ。小沢さんのほうからも、人材を登用したいが・・・」

 菅首相は小沢氏側近の何人かを入閣させるつもりでいた。勝っても政権基盤に自信が持てない菅首相は、小沢側近の山岡賢次氏を農水相に、三井辨雄氏を厚労相に、などというプランを持っていたという。

 ところが、これを聞いた仙谷氏は激怒して、首相のプランを一蹴した。

「そんなものはダメだ。認めるわけにはいかん」

 菅首相は「せめて1人くらい・・・」と、多少の抵抗を試みた。しかし仙谷氏は頑としてクビを縦に振らなかった。そして延々2時間に及ぶ、仙谷氏による説教が始まったのだという。

「そもそも小沢は、菅政権に協力する気など毛頭ないよ。アンタがいつもそうやってふらつくから、付け込まれるんだ。そもそも、参院選で負けたことも、不定見な消費税発言が原因じゃないか。何の根拠もない景気対策を思いつきで口にするのも、やめたほうがいい。もうそろそろ総理として、軽挙妄動は慎んでもらわなければならない」

 仙谷氏は代表選の最中、首相が小沢氏懐柔のために、「仙谷のクビを切る」という交換条件を呑もうとしたことに、拭い去れない不信感を抱いていた。

「菅はもうアカン」

 周囲にはオフレコでそう語り、内心ではすっかり見限っている。だが、小沢という自身にとっても最大の敵の息の根を止めるには、もう少しこの男(菅)を利用するほうがいい―。

 結局、首相は何も言い返すことができず、「すべて」を仙谷氏が仕切ることになった。この2時間の説教が終わった後、菅政権が新たに船出した・・・のではない。そう見せかけて、実態としては「仙谷由人政権」が誕生したのである。

「その犠牲者第1号が、長妻氏ということです。長妻氏は鳩山政権ができた時に、『やらせてくれ』と懇願して厚労相になりましたが、本来、そのポストには仙谷氏が就任する予定でした。それを鳩山前首相が『長妻のほうが目立つ』と考え、ひっくり返した経緯があります。仙谷さんはずっとそれを根にもっていた」(民主党中堅代議士)

 厚労行政については民主党一詳しいとの自負を持つ仙谷氏にとって、年金問題しかできず、官僚と衝突してばかりの長妻氏は、無能そのものの存在だった。

「まったく使えない」

「野党がふさわしい奴だ」

 長妻氏のことを容赦なく酷評し、自分の息がかかった厚労省の役人たちにも、そう吹き込んだ。長妻氏を憐れみ、菅首相は首相補佐官としての起用も考慮した。しかし、それすら仙谷氏によって握り潰された。長妻氏は、岡田克也幹事長に拾われることで、「無役」だけは辛うじて免れている。

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