なぜ、あの上司は嫌われるのか?
なぜ、あの上司は嫌われるのか?

「頭のいい」「優秀」なビジネスパーソンが嫌われるワケ

 ビジネススキルを向上させるための演習プログラムの中で、「リーダーシップを発揮するためには何か必要でしょうか」ということを参加者に考えていただく機会があります。参加者からは、「カリスマ性があること」「人情が分かること」「豊かな経験を有すること」「優れた思考力と判断力」・・・などの能力要素が、次々と挙がります。

 中には、「リーダーに集中する情報を生かす能力」といったご意見までありました。これらの能力要素のほとんどが、各種セミナーや書籍で取り上げられているもので、長年、ビジネスパーソンが高めてきた能力要素と言えるでしょう。

 しかし、私は、今日のビジネス環境の中では、これらの能力要素はリーダーシップを高めるためには、実は役立たないと考えています。いや、20年来、能力開発プログラムの演習を実施する中で、特にここ数年の傾向を考えて見ると、これらの能力要素は役立たないどころか、むしろ、真逆の能力要素が必要ではないかと確信し始めているのです。

 とりわけ高学歴な、例えば、有名大学や大学院を修了したり国家資格を保有したりしている「優秀」なビジネスパーソンがリーダーシップを発揮できないでいて、かつご自身はそれに気づいていない。そんな事例が、ここ数年来年々増えてきているのです。本人は気づいていない分、その方に率いられているチームメンバーが苦労しているケースも少なくないのです。

 例えば、「カリスマ性を意識するあまり、命令によるリーダーシップに固執し、メンバーがついてこない」、逆に、「人情が分かることを誤解し、人から聞くたびにコロコロ言うことが変わる」、「長年の自身の経験のみを考慮し、他のメンバーの浅い経験を無視する」、「自身の思考力と判断力を過信し、現場で起きている事実を軽視する」といった状況が、チームメンバーを混乱に陥れています。優秀なビジネスパーソンであればあるほど、固執や誤解、過信の度合が高く、他のチームメンバーからみれば、深刻な問題になっているように思います。かくして、頭のいい、いわゆる優秀だと目されている方々が嫌悪されてしまう場面が年を追うごとに多く出くわします。

自身の能力要素への固執が、ビジネス環境から乖離

 私には、その原因は、冒頭の能力要素を豊富に有している、いわゆる優秀なビジネスパーソンが、その能力要素の発揮に固執するあまり、今日のビジネス環境の中では、リーダーシップを発揮できないでいる状況に直面していると思えてなりません。

 今日の輻輳した価値観が交錯するビジネス環境にあっては、一握りの天才的な経営者がビジネスを伸展させるケースが極めて少なくなってきました。カリスマ性に頼るよりも、チームの総力をいかに上げるかが鍵となっているように思えます。

 チームの総力を上げるためには、人情に訴えるリーダーシップではなく、誰にでも発揮できる仕組みとしてのリーダーシップがより効果を上げるのではないでしょうか。

 リーダーの豊かな経験はあるに越したことはないと思いますが、他のチームメンバーの知恵や工夫に、ビジネスの飛躍的伸展の鍵があることは、既に周知の事実だと思います。

 優れた思考力や判断力は不可欠でしょうが、これを過信して、現場や事実を軽視してしまっては、実際のビジネスを推進していくことはできません。

 ましてや、広く誰でも情報にアクセスできる時代、リーダーに集中する情報を生かす能力は、もはや不要で、現場にあまねく流布している情報から何を選択するかという能力が必要となってくるわけです。

 すなわち、今日のビジネス環境にあって発揮すべきリーダーシップは、リーダーの能力に依存したリーダーシップから、チームメンバーの総力を極大化するリーダーシップへ、質の変換が不可欠です。自身の能力発揮ではなく、チームメンバーの能力発揮に依存するリーダーシップですから、いわゆる優秀なビジネスパーソンの自身の優秀さは、あまり関係なく、むしろ邪魔になってしまうのです。

チームメンバーによる合意形成に託せるか

 チームメンバーの総力を極大化するリーダーシップを実現するために、私が経験的に有効性を確認している方法は、チームメンバーが自発的に考えて、チームとしての合意形成を図り、次々とビジネス課題を解決していく言動をチームリーダーとチームメンバーの双方が体得していく方法です。

 こう申し上げると、特に、いわゆる優秀なビジネスパーソンからは、「チームメンバーに考えさせるということは、目指すべき方向へ考え方を一本化できないリスクが高まるのではないか」「チームメンバーに依存することは、リーダーとしての役割の放棄ではないか」という意味の反論をいただくことがあります。

 実は、チームメンバーに考えさせるということは、目指す方向へ考え方を一本化することにたいへん有用なことがわかっています。

 例えば、リーダーの考え方と、メンバーの考え方に乖離があるとします。実際のビジネスの場面では、乖離があることが当然ですね。今日のいわゆる優秀なビジネスパーソンは、自身の経験や能力を過信して、度合の高低はありこそすれ、異論や懸念が出る都度に、それを個別に論破しようとします。そして、見解の相違の度合が大きければ大きいほど、論破に熱が入ります。その場合の、見解の相違の度合は、以下の黄色の矢印で表されます。

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 一方、リーダーが方向性を示した上で、チームメンバーだけで、その方向性に対する異論や懸念を検討させた場合はどうでしょうか。チームメンバーがさまざまな属性を有したメンバーであればあるほど、チームメンバーの見解は、チームメンバーの中央値に近づきます。

 従って、リーダーとメンバーとの見解の相違の度合いは、チームリーダーが個別に論破しようとした前の例よりも、格段に小さくなるのです。もちろん、1回でリーダーとメンバーの考えが全く一致するわけではありませんが、リーダーは、個別論破の労力も要せずに、メンバーにまかせるだけで、合意形成の度合を高められるのです。

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課題解決力と合意形成力でメンバーを巻き込む

 こうした事例をご説明したり、あるいは、実際に演習で体験いただいたりしても、「いや、ケースによっては、チーム内の検討によって、見解の相違度合いがさらに高まる場合があるのではないか」というご意見をいただくことがあります。

 ジェームズ・スロウィッキー著『「みんなの意見」は案外正しい』(角川文庫、小髙尚子訳)の中で紹介されていた、「瓶に入ったジェリー・ビーンズの個数をあてるゲーム」がよい例です。

 ここでは、「最も近い個数をあてた個人より、参加したメンバーの平均値の方が実際の個数に近かった」「グーグルが何十億というウェブページから探しているページをピンポイントで発見できるのも、集団の知恵のたまものである」という例が紹介されています。この例も、チーム内における検討が、結果として全体の見解の相違を小さくする方向に働くことを明確に示しているように思えます。

 能力開発プログラムを展開し続ける中で私は、リーダーが個別に論破するのではなく、チームメンバーが自発的に考えて、チームの見解を中央値に近づける、そして、チームメンバーの自発性を発揮させながら、中央値を、リーダーの考え方に近づけていくためのスキルがあるということを見つけました。

 リーダーが、それほど難しくないこの2つのビジネススキルを体得していくと、チームとして合意形成を図り、次々とビジネス課題を解決していくことが容易にできるようになり、この課題解決の好循環が次々と回るようになります。

 そのビジネススキルとは、「課題解決力」と「合意形成力」です。そして、これらは、さらに12のスキルに分解して反復練習することで、着実に身に付けることが可能なのです。

 昨年は、100を超える企業・団体・教育機関から参加いただき、このビジネススキルを高める能力開発プログラムを実施させていただきました。最近では、わが国を代表する自動車会社のグループ各社の役員クラスの方々に参加いただいてスキルを体得され、活用し始めていただいているところです。

※本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。本文中の画像は、イメージ画像です。

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