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◆コラム 悲しい「逆縁」と「コロナ後」
 若林哲治の土俵百景

「新しい生活様式」とは?

 5月25日、政府は緊急事態宣言の全面解除を決めた。多くの人たちの「解除」されない悲しみや苦しみをよそに、「ポストコロナ」「新しい生活様式」などの言葉が飛び交っている。国際情勢や企業活動、働き方、人と物の流れなど変わるものは変わるのだろうが、世界中で人々が地に足をつけ、長い年月をかけて積み上げてきた営みのありようが、そう簡単に変えられるものなのかとも思う。

 国民に命がけの苦労と我慢をさせておきながら、「小康状態」を「抑え込み」だ「収束」だと言って手柄を自分たちのものにするかのような権力者の口車には乗りたくない。

 激しい身体接触を伴う競技性、部屋での集団生活、みんなで鍋を囲む食事-。確かに相撲界の活動や生活は、人と人の濃密な距離で成り立っている。日本人はハグをしないことが感染爆発が起きない理由とも言われるが、お相撲さんは仲良し同士でペタペタじゃれ合うことが多くて、これがまた土俵上の闘志と対照的でほほ笑ましいものだ。

 だが、互いが接近せずにできる競技などないし(試合はできても練習はできない)、集団生活は相撲界だけではない。マス席は相当な「密」だが、ではお客さん同士が1メートルも離れて黙って見る競技がどこにあるか(満員ならばの話だが)。親方衆が「どうせ俺たちは何をしてもたたかれる」とぼやくのも分かるし、他よりリスク要因が重なっているとしても、地球上で大相撲にしかない危険があるとは思えない。

 治療薬やワクチンができ、このウイルスの挙動が解明できるまで、身を守るために最大限の工夫と忍耐はまだまだ必要だが、一時期の取り組みと、これを機会に改めたり本腰を入れたりするべき事柄とを冷静に見極め、次へ向けた「仕切り」の体勢に入ってほしいと思う。

 例えば、コロナ禍では基礎疾患の危険性が指摘された。いまだ世間では糖尿病や高尿酸血症は不摂生が原因で、力士となればちゃんこと昼寝のせいだと思われているが、実際には一般人同様、生来の体質やストレスの要素も大きい。むしろ大酒飲みが減り、肝臓、膵臓、腎臓といった内臓の疾患やさらに昔のかっけなど力士の「職業病」は減ったように見える。

 だが、大型化が進み、中・高卒で相撲経験のない新弟子が中学・高校相撲などの経験者に交じって強くなろうとすれば、無理して体を大きくする危険性は以前より高い。一人っ子が当たり前の時代には、入門と同時に生活の激変によるストレスで心身への負担が増す。そして何より、総体的な稽古量の低下による栄養過多。時代とともに新たなリスクが忍び寄っている。

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