九州発 西部本社編集局

捕鯨の新母船「関鯨丸」の進水式「鯨肉の供給責任果たせる」…課題は消費者の需要喚起

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進水式で披露された新母船「関鯨丸」(31日午前、山口県下関市で)=秋月正樹撮影
進水式で披露された新母船「関鯨丸」(31日午前、山口県下関市で)=秋月正樹撮影

 世界で唯一、母船式捕鯨を行っている捕鯨会社「共同船舶」(東京)の新母船「 関鯨かんげい 丸」の進水式が31日、建造を請け負っている旭洋造船本社(山口県下関市)で開かれた。組み立てが終わった船体が初めて披露され、関係者からは喜びの声が上がった。一方、操業は日本の排他的経済水域(EEZ)内のみで、捕獲できる鯨も現状では3種類にとどまる。消費者の需要をいかに喚起するかにも課題が残る。(今泉遼)

 式典には、両社や水産庁職員など約120人が出席。深い青色に塗られた全長113メートル、幅21メートルの巨大な船体に見入っていた。共同船舶の関係者が船を支える綱を切断すると、くす玉が割られ、会場からは歓声が上がった。実際に海に浮かべる作業は強風のため、9月1日以降に延期された。

 共同船舶の所英樹社長(69)は報道陣に「この船を造ることで少なくとも今後30年間は鯨肉の供給責任を果たせる」と強調。来賓で訪れた林芳正外相は「科学的根拠に基づいた捕獲枠の中で、この船が活躍してくれることを願う」と述べた。

建造中の関鯨丸内部の操舵(そうだ)室(29日、山口県下関市で)
建造中の関鯨丸内部の操舵(そうだ)室(29日、山口県下関市で)

 捕鯨母船は小型船が捕獲した鯨を積んで解体し、鯨肉を冷凍する役割を持つ。同社は現在所有する捕鯨母船「日新丸」の老朽化に伴い、新母船の建造を決断した。関鯨丸は9100トンで連続航海日数60日、航続距離は1万3000キロ・メートル。発電機で電気を生み出して動く電気推進式で燃費が良いという。鯨を探知する高性能ドローンの格納庫もあり、容量20トンの冷凍コンテナ40基も備える。

 建造は今年2月に始まった。今後、食堂、キッチンなどを整備し、11月に役目を終える日新丸から鯨肉の箱詰め用の設備などを移設する作業を行う。来年3月下旬に完成し、共同船舶に引き渡される予定だ。

下関市が母港に

 建造費は約70億円で、下関市が建造費のうち3億円を補助する。市は関鯨丸の母港化を目指しており、所社長はこの日、「下関が母港になる」と明言。前田晋太郎・下関市長は謝意を示したうえで、「今後は鯨肉に対する国民の理解を得るため、情報発信に力を入れたい」と述べた。

 日本は1987年から鯨の頭数などを調べる調査捕鯨を続けてきたが、米豪など反捕鯨国との溝が埋まらず、2019年6月に国際捕鯨委員会を脱退。同7月から商業捕鯨を再開した。

 母船式捕鯨の共同船舶や沿岸捕鯨方式の捕鯨各社がEEZ内で、ミンククジラなど3種を捕獲している。政府はさらに新たな鯨種の追加も検討している。

 水産庁によると、鯨肉の国内消費量は1962年度のピークが23万トン。2021年度は2000トンで、ピークと比べ100分の1に満たない。

船内の解体工場、手探りで設計

図面を使いながら関鯨丸について説明する旭洋造船の相場専務(29日、山口県下関市で)
図面を使いながら関鯨丸について説明する旭洋造船の相場専務(29日、山口県下関市で)

 建造責任者を務める旭洋造船の相場裕道専務(51)に関鯨丸について聞いた。

 ――苦心している点は。

 旭洋造船は創業して81年だが、捕鯨母船を造るのは初めてだ。特に鯨を解体して商品にする「工場」部分は通常の船にはないため、手探りで設計し造っている。現在、就航している日新丸が仙台市や広島県・ 因島いんのしま に入港する度に見学に行き、乗組員に鯨の捕り方から船の設備まで生の声を聞いて、関鯨丸の設計に生かした。計15回ほど足を運んだ。

 ――今後、困難な部分は。

 定員100人で個室を100部屋用意しないといけない。私が携わってきた船の中でも断トツで多く、内装工事は大変になる。

 ――建造に関わっていることをどう思うか。

 下関市民から応援の声をいただくこともあり、この街と鯨の関係の深さを感じている。関鯨丸がなければ、母船式捕鯨が消滅しかねない。特別な船の建造は貴重な経験だし、鯨食という日本の食文化を守ることにつながり、誇りに思う。

 下の動画に使用した写真の一部は旭洋造船提供

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