坂田利夫さん、“アホ”演じ貫いた芸人人生 理想の女性はヘレンさん 生涯独身で「誰のために働くのか」と寂しさも

芸能生活50周年イベントの発表会見でピースサインを見せる坂田さん(手前)ら(2014年10月)
芸能生活50周年イベントの発表会見でピースサインを見せる坂田さん(手前)ら(2014年10月)

 “アホの坂田”の愛称で親しまれたお笑いタレント・坂田利夫(本名・地神利夫=じがみ・としお)さんが29日、老衰のため亡くなった。82歳。30日、所属する吉本興業が発表した。通夜・告別式は近く近親者のみで行う。お別れの会の予定は現在のところはない。前田五郎さん(21年死去)との漫才コンビ「コメディNo.1」で人気を博し、72年発売したレコードが大ヒットするなど幅広いジャンルで活躍した。

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 「アホ」を一筋に貫いた芸人人生だった。少年時代から「好きな世界でお金もうけして、親孝行を」と芸能界に憧れ、吉本新喜劇座員募集を知り、入団。実は、オーディションは不合格だったが、名漫才師だった花菱アチャコさんから「あの子は何か持っている」と推挙され、ギリギリ滑り込んだ逸話がある。

 「持っている」センスが前田五郎さんとの「コメディNo.1」の漫才の中で花開いた“アホの坂田”のキャラクター。その裏では苦悩もあった。道を歩くと「おい、アホ」と呼ばれることが多く「誰がアホや!」と怒鳴り返したことも。酒場では酔客に絡まれることもあるため、なじみの店にしか行かなかった。「家族の前ではアホを演じることがでけへん」と親や弟、妹を劇場に来場させることは一切しなかったという。

 それでも「お年寄りから子供までかわいがってくれる」と感謝。坂田さんの活躍前から“アホ”が代名詞だった喜劇王・藤山寛美さんからの「とっつあん(坂田さんの愛称)、アホを演じる時は、いつもかわいく演じなアカンよ」という言葉を胸に舞台に立った。

 生涯独身も貫いた。自身は「ほれやすい」が「女性は苦手」。女性の前では二枚目を気取った。「理想の女性。こういう人がいないから婚期が遅れる」と名を挙げたのは、西川きよし夫人の西川ヘレン。新喜劇の駆け出し時代、西川夫妻の4畳半のアパートに転がり込み、食事、洗濯と世話になった。ヘレンと同じく「頭が上がらん」のが、間寛平の妻。一時、ホテル暮らしをしていた坂田に「それじゃだめ」と寛平一家と同じマンションの部屋を手配してもらい、家族のように接してもらったという。2004年のスポーツ報知インタビューでは「家族がいないと誰のために働いているのか分からん。一人もんはやっぱりつらい」とこぼしていた坂田さん。夢は叶わなかったが、芸人仲間からの愛を受けて天国に旅立った。

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