ヤクルト・奥川恭伸投手(20)が27日、日本一を受けて本紙に特別手記を寄せた。クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第1戦で6安打完封勝利を挙げ、日本シリーズ開幕戦では7回1失点。いずれも父・隆さん、母・真由美さんが見守り、日本シリーズでは7学年上の兄・圭崇さんも観戦に訪れた中で快投を見せた。頂上決戦を経て芽生えた一つの思いとは―。2年目の現在地と自身の理想像を重ね合わせた。
率直に「フゥ~」という感じです。やっと緊張から解放され、肩の荷が下りました。リーグ優勝を決めてもCSでの登板、CS突破を決めても、日本シリーズでの登板がある。心の底から、ようやく笑顔になれた気がします。
「お母さんを泣かせないような投手になりたい」
ポストシーズン2試合を任されて、そう決意しました。2試合とも両親が観戦に来てくれたのですが、後から聞いたところでは、試合前からお母さんが泣いている、と。プロに入る前もそうでした。「打たれるんじゃないか」「けがはしないか」「何とか5回まで」…。球場に来ても心配が勝ってしまって、自分の投球を直視できないそうです。
結果的には、完封と7回1失点。もちろん短期決戦なので、結果が全て。相手より1点でも少なく抑えればいい。そこは良かった。
ですが、内容は結果に値していなかった。味方の好守備に何度も助けられましたし、ラッキーな打球もあった。自分が目指しているのは、完璧な投球。自分が納得のいったボールは正直、一球もない。そんなヒヤヒヤの投球では、お母さんも見ていられないだろうと思います。
究極の投球とは何か―。よく考えています。27球で試合を終わらせることなのか、27奪三振で終わらせることなのか。自分は両方を追い求めていきたい。球数は少なく、三振を多く奪うことが理想です。今はまだまだ全然。ただ、CSと日本シリーズで自分が目指す投球が見えてきた気がします。
まずは、ストライクゾーンでどんどん勝負すること。それを短期決戦でも貫くことができました。次はその先です。直球のスピードが5キロ上がるだけで、もっと楽にゾーンで勝負できる。決め球の精度が上がれば、ファウルになっていた球が空振りになる。そうなればもっと球数も減らせるし、三振も多く取れる。そういう投球をこれからも心掛けていきたいです。
シーズン前半は本当にしんどくて先が真っ暗でした。自分が思っていたよりも投げられない。周囲の人も、あまりいいことは言ってくれない。自分はどうしても周りの反応を気にしてしまう。
「甲子園のときの方が良かった」
高校時代と比べられて、今が劣っているような言葉は心に刺さりました。それだけは絶対、見返してやりたいと思っていましたし、これからも同じです。誰からも批判をされず、球場を支配し相手を圧倒できる投手になります。
自分を誰よりも心配してくれる両親、そして兄に感謝しています。両親の前で今年は3試合(後半戦の開幕戦、CS、日本シリーズ)に投げて、いい投球ができました。お母さんを泣かせないと決意しましたが、毎回来てもらうとさすがに自分も、もたない。年3回くらいにしてもらわないと…。昨年、唯一観戦に来てくれたプロ初登板は、肩身の狭い思いをさせてしまった。もうそんな姿は見せたくない。
心配性のお母さんも安心して見ていられる。重要な一戦で必ず勝てる。そんな投手像を描いて、オフのトレーニングに励みます。(東京ヤクルトスワローズ投手)