イランと断交 外相表明 大使館襲撃受け
【ローマ秋山信一】イスラム教スンニ派の大国サウジアラビアがシーア派指導者らを処刑したことに対し、シーア派国家イランの首都テヘランで抗議のデモ隊がサウジ大使館を襲撃した事件を受け、サウジのジュベイル外相は3日、首都リヤドで記者会見を開き、イランとの外交関係を断絶する方針を明らかにした。
スンニ、シーア両派の盟主をそれぞれ自任するサウジとイランの外交関係が悪化したことで、中東全体で宗派対立が深刻化するのは必至で、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦にも悪影響が出そうだ。
サウジ外務省は3日、同国に駐在するイランの外交団に対し、48時間以内に出国するよう通告した。イランに駐在するサウジの外交官らは既に帰国の途に就いた。
両国間の緊張は、サウジ政府が2日にシーア派の有力指導者ニムル師らを処刑したと発表したことで一気に高まった。テヘランでは同日夜、デモ隊がサウジ大使館に放火したり乱入したりした。
ジュベイル外相は会見で「イランがサウジの治安の不安定化を図ることは許さない。イランはこれまでにもサウジ国内で『テロリスト分子』を作る政策をとった」などと強く非難。サウジ国民の約15%を占めるシーア派によるスンニ派王室への反対運動の背後にはイランの扇動や支援があるとの見解を示した。
サウジとイランの対立激化の影響が、中東各国に及ぶのは不可避だ。両国はシリアやイラク、イエメン、レバノンで、それぞれ異なる政治勢力を支援し、他国での紛争や政争が激しくなる一因を作ってきた経緯がある。
内戦状態が続くシリアやイエメンでは、国連などによる和平調停が続けられており、1月には和平協議がそれぞれ開かれる予定だ。だが、和平の実現には部隊派遣などで紛争に深く関与するサウジとイランの歩み寄りが不可欠で、両国関係の悪化により和平協議の開催自体も危ぶまれる状況になってきた。
またイラクでも、シーア派とスンニ派の政治勢力が挙国一致体制を継続するために両国の役割が重要だ。宗派対立の余波がイラクに及べば、アバディ政権が不安定化し、IS掃討作戦にも悪影響が及ぶ可能性がある。