三浦優子のIT業界通信

PCはオワコン? Windows 7の販売期間がひっそり1年延びるも、国内市場に復調の兆し

 苦戦が続くPC市場だが、2016年度に入って、「法人需要はPCの販売状況は前年比2桁増と好調」という声がメーカーや販売会社から上がっている。調査会社のIDC Japanが8月23日に発表した「2016年第2四半期(4月~6月)の国内クライアントPC出荷実績」では、個人市場は前年割れとなったものの、法人市場では10.7%増と2桁成長となった。個人市場は相変わらず厳しい状況が続くものの、PCメーカーからは、「個人市場がこのままシュリンクしてしまうとは考えにくい。反転する時が来るのではないか。今回の法人市場復調がその先駆けになっていけば」と個人市場を含めた復調を期待する声もあがる。

 PC市場で今、何が起こっているのか。

Windows 7のダウングレード権終了特需で法人市場活性か

 「PCの販売状況は、法人向けについては、2016年1月頃から前年を上回る販売になっている。その勢いは4月以降も変わらず、好調となっている」。主要PCメーカーからこんな声が上がるようになっている。NECレノボグループ、富士通、日本HP、デルに確認したところ、「法人向け販売は1月頃から前年を上回っている」との回答があった。

 NECレノボグループでは、「法人用PCに関しては、2016年1月頃から前年を上回る出荷台数に転換している。その勢いは、4月以降も継続している」と明るい状況であるという。

 富士通でも、「具体的な数は公表していないが、前年度第4四半期(2016年1月~3月)から法人向けPC出荷は好転している」としばらく続いていた前年割れから立ち直っているという。

 日本HPの執行役員パーソナルシステムズ事業本部長兼サービス・ソリューションズ事業本部長の九嶋俊一氏は、「不調と言われているPC市場だが、法人需要については直近の2四半期は好調となっている。お客様の需要が戻ってきている。Web直販では8月も好調」と話す。

日本HPの九嶋俊一氏

 メーカー各社のコメントを裏付けるように、IDC Japanの発表では、2016年4月~6月の法人市場の出荷台数が前年同期比10.7%増の145万台。個人向け市場が14.1%減の104万台であることから、トータルでは前年比1.2%減の250万台。個人市場の落ち込みを法人市場がカバーしたことになる。

 法人市場が活況だった要因についてIDC Japanでは、「2016年10月31日付けでWindows 7搭載PCのディストリビューター等による一時的な買い込みによるもの」と分析している。

 確かに、法人向けビジネスを行なう事業者はWindows 7(Windows 10 Proに付随するダウングレード権を利用したもの)搭載PCの販売終了前の駆け込み需要に期待していた。PCのディストリビューション事業も行なっている大塚商会では、2016年度の中間決算(2016年1月~6月)でPCの販売台数が13.7%増の475,781台となったと発表。代表取締役社長である大塚裕司氏は、「Windows 7の販売終了による、特需が期待できる」とさらなる伸びを期待するとコメントした。

大塚商会の大塚裕司氏

 10月末のWindows 7搭載PC販売終了は、法人市場を活気付けたのである。

Windows 7へのダウングレード権は条件付きで1年延長へ

 ところが、10月31日のWindows 7販売終了にともなう特需は期待できない状況となった。条件付きではあるが、マイクロソフトがWindows 7の販売を1年延長したのである。

 関係者の話を総合すると、詳細は公表していないが、一定の条件のもと、2017年10月31日までWindows 7の販売を延長できることとなったようだ。ただし、一定の条件のもとであり、基本的には2016年10月末日で販売終了とということだ。そのため、PCメーカー側は「Windows 7の販売終了は1年伸びた」と捉えており、これでは期待していた特需は望めないことになる。だが、意外にもPCメーカーはこの先の市場動向について楽観視している。

【お詫びと訂正】初出時に、Windows 7 PCの販売延長について、日本マイクロソフトの公式声明のように記載しておりましたが、同社ではこの件について公表しておりません。お詫びすると共に、表現を一部訂正させていただきました。

 日本HPの執行役員パーソナルシステムズ事業本部長兼サービス・ソリューションズ事業本部長の九嶋俊一氏は、「現在、法人向け販売が好調なのは、Windows XP特需でPCの買い換えを行なった企業様の多くが、数年間、買い換えを我慢していた。ようやく買い換えのゴーサインがかかった企業が多いのではないか。今後はXPの時のように買い換え時期が集中することはなくなり、特需のような販売集中する時期はなくなるのでは」と指摘する。

 NECレノボグループでも、「現在の法人需要復活は、Windows XPサポート終了による駆け込み需要によるマイナス影響がようやく平準化してきたのでは」と特需はプラスもあったが、マイナス影響も大きかったと指摘する。

NECの「MateタイプMC」

 確かにWindows XPのサポート終了は、PCメーカー各社に特需を生み出したものの、メーカーにとってはその後の需要を先食いし、マイナス成長に陥った原因とみなされているようだ。そのため、Windows 7の販売が終了することで特需が生まれることに対しては懐疑的に見ている。

 導入する企業にとっても、「Windows XPの時のように、サポート終了直前に利用するOSを切り替えるのは得策ではないと考える企業が増えているように感じる」という声がPCメーカーから上がっている。MicrosoftもWindows 10から、アップデートによる機能向上というこれまでとは異なったモデルを採用。これまでのように数年おきに新しい製品を発売するモデルからの転換を図っている。

 メーカーがWindows 7搭載モデルの販売が終了しても、「Windows XPのサポート終了時のような特需にはならない」と見ているのも、こうした変化を受けてのことだろう。

デルはコンシューマ向け販売が成長の鍵に

 また、PCメーカーによっては、「法人だけでなく、個人向けでも調子が良い」と言う声もある。IDC Japanの発表では、メーカー別シェアも公開しているが、大きくシェアを伸ばしたのがデルだ。法人市場の伸びは13.8%だが、個人市場では74.9%増と大きな伸びとなっている。

 この要因についてデルでは、「ここ数年注力してきた店頭販売が好調。従来の直販に店頭など間接販売分が加わったことで、売り上げ増、シェアアップを実現することができた」と分析している。

 また、日本HPでは、「コンシューマ向け商品の中でも売上が伸びている製品もある。デザイン性の高い製品については売れ行きが好調」(九嶋執行役員)と製品によっては、コンシューマ市場でも伸びているものがあるという。

日本HPの「Spectra 13」

 ここ数年、PCはスマートフォン、タブレットの登場で、「オワコン」などと厳しいレッテルを貼られてきた。しかし、PCで作業した方がスマートフォンを利用するよりもはるかに効率よく作業が進められることがまだまだ多いことは言うまでもない。法人市場が前年割れから脱したのは、まさに企業内ではPCを使う仕事がまだまだ多いことを示している。

 個人向けについても、日本HPの九嶋執行役員は、「いつ、どういったものでと具体的に指摘は難しいが、新しいテクノロジーによってコンシューマ市場が活性化することもあるのではないか」と指摘する。確かにPC市場は新しいテクノロジーと、そこから生まれる新しいソリューションによって市場が拡大してきた。現在の状況は新しいテクノロジー、ソリューションが登場する前の踊り場に差し掛かっているといえるのかもしれない。いや、新しいテクノロジーとそれを使った新しいソリューションによって、「あの時は踊り場だった」と振り返ることができるよう、PC業界の踏ん張り時なのかもしれない。