つげ義春が描いた湯小屋「保存を」 観光資源化へ有志ら取り組み 福島

 「ねじ式」「無能の人」などで知られる異色漫画家、つげ義春氏の作品「二岐(ふたまた)渓谷」のモデルとなった天栄村の「二岐温泉・湯小屋旅館」が老朽化で取り壊す話が持ち上がっている。現在も熱烈なつげファンが足を運んでおり、有志のメンバーが存続や観光資源に残そうと取り組んでいる。(大渡美咲)

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 二岐温泉は、天栄村から山道を約30分走った山間にある。秘湯と呼ぶのにふさわしい場所に旅館が点在する。湯小屋旅館はこけが生えた急な石階段を下り、二俣川沿いにあるひなびた温泉宿だ。

 つげ氏は昭和48年2月、漫画雑誌「月刊漫画ガロ」(青林堂)に二岐温泉をモデルにした短編「二岐渓谷」を発表した。つげ氏と思われる旅人が「このあたりで一番貧しそうな宿はどこですかね」と村人に尋ね、湯小屋旅館に宿泊した数日間を描いている。作品に登場する主人夫婦は以前の主人、星卓司さんだ。すでに亡くなっており、生前、廃業しようとしたところ、存続を望んだつげファンらが権利を譲り受け、今では週末に営業している。

 「漫画と照らし合わせて楽しむお客さんもいますよ。お客さんはつげファンか温泉好きのどちらかですね」。こう話すのは現在の湯小屋旅館の主人、高萩一之さん(56)。譲り受けた11年前でもすでに老朽化が激しく、現在は客を宿泊させるのも危険な状態のため、建て直しを検討したという。しかし、ファンからの「このままの姿で残してほしい」との根強い声を受け、建物を直しながら駐車場部分に新しい旅館を建てることを検討している。

 今年は、つげ氏の漫画家デビュー60周年。モデルとなった岩瀬湯本と二岐温泉の地域おこしとして、つげ氏ゆかりの地をアピールしようという動きが広まっている。その第1弾として23日には「つげ義春フォーラム」が天栄村の「文化の森てんえい」で開催される。高萩さんや「ガロ」の元編集者などがつげ作品や二岐温泉の魅力について語り合う。24日には見学会「つげ義春が歩いた湯本・二岐」も行われる。

 天栄村で地域おこしに取り組んでいるEIMY湯本地域協議会事務局長、小山志津夫さんは「温泉にはたくさんのリピーターが来ているので地元の地域おこしにつなげたい」と話している。

 23日のフォーラムは入場無料、先着200人。見学会は要予約。

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