現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. ビジネス・経済
  4. コラム
  5. 私のミカタ
  6. 記事

「スポークスパーソントレーニング」を受けよう

2011年6月8日10時31分

  • 筆者 株式会社イー・ウーマン代表取締役社長 佐々木 かをり

 記者会見をみていると、「んーー、素晴らしい」とうならせる経営者や広報官が出てくることは、とても珍しい。講演を聞いていても、専門知識や体験からは、もちろん多くを学ばせていただくことができるが、「さすがだ」と思わせるプレゼンテーションの講演者は、そんなに多くはいない。海外の会議などに出席したときに目にする経営者や政治家の講演と比べると、圧倒的に「話し手」としての魅力に欠けると感じることが多く、残念に感じる。

 株主や消費者に向けて対話する時も、国際コンペにおいても、「最高の商品なんだから、伝わるはず」「こんなに努力したんだから、わかってくれるだろう」「技術の差を、クライアントは見抜いてくれるはず」といって、相手にどう伝わるか「届ける」「伝える」という点に力をいれないことが、日本文化の美徳なのだろうか。

 しかし、そうもいっていられない。今回、イー・ウーマンにあつまる働く女性たちに意見を聞いてみると、8割以上の人が、記者会見などでの経営者や広報官などの様子で、企業イメージが変わると回答している。また、以前のイー・ウーマン調査でも、企業を選ぶ基準として、その企業の商品やサービスの品質の次が、「経営者のビジョン」など、経営者の話す内容、人柄、見え方に企業のブランド力が大いに影響されていることが分かる。今回のイー・ウーマン調査でも、企業の新商品発表や広告宣伝の力と比較し、「そのような知恵をもっと他でも活かせないものなのかと思います」と、指摘する人もいる。

 その通りである。新商品を販売するための戦略や広告は熱心にお金を使い、時間をつかうが、今、株主や消費者からの信頼を獲得するために重要な「経営者の理念と魅力」「社員の姿勢と魅力」を表現するための時間とお金をつかっていない。この「話す力」「伝える力」は、日本の学校教育でも、ビジネスや政治の研修においても、今、力を入れる必要がある。また、多くの人が、伝える力と「(日本流)プレゼンテーションスキル」を混同しているが、残念ながら、たとえばパワーポイントなどの見せ方に多くの力がそそがれているプレゼンテーションスキルでは、「伝える力」は身につかない。

 人前で話す人の事を英語では「スポークスパーソン」という。欧米では、この訓練を受けていない人は、取材にも応じないし、パネルディスカッションにも出ない。商品のプレゼンさえしないのだ。では、どんなスキルが重要か。

 私たちが教える「スポークスパーソンの10のスキル」は

1)筋道を立てて論理的に話す構成の技術

2)相手が受け取ることのできる情報選択と提供の技術

3)単語選択、言葉遣い等の技術

4)発声や滑舌など伝わる声の技術

5)視線、ジェスチャー、姿勢、歩き方など肉体から表現の技術

6)服、髪、メイクなど視覚でつたえる技術

7)顔の表現力を高める技術

8)質疑応答等の際の場の空気や聴衆との距離感を感じとる技

9)自らを解放する技

10)聴き手を魅了し、満足してもらう心構え

 講座卒業生の中には、「今までは、講演終了後に名刺交換程度だったが、今では、一緒に写真を撮って欲しいとか、サインしてほしいと言われるようになった」と報告してくる人もいる。講演で、提供された情報がよければ名刺交換をするかもしれない。しかし、一緒に写真を取るのは「ファンになった」からである。話の内容に加え、人としての魅力が伝わった時、初めて人は、ファンになる。

 今、企業は、多くのファンを育てていかなくてはならない。また教育でも医療でも、「信頼できる」「頼れる」人に仕事が集まる。ビジネスパーソンも、医師も、教師も、政治家も、「スポークスパーソン」として伝える力を総合的に上げていくことで、仕事が順調に広がっていくことを実感するだろう。そしてさらに、経営幹部は、「スポークスパーソン」として、主に、株主総会や謝罪会見などで多様な質問に答える場合のノウハウ、メディアに出る時のノウハウなど、「メディアトレーニング」を追加していく。

 中身がいいからこそ、「伝える力」を磨く。見え方、見せ方を身につける源は、本当のプロ意識なのだ。伝える力が重要であることを理解し、積極的に、継続して、トレーニングを受けることが、道を開く。「わかりやすく伝える。心から伝える」……今、日本の「働く人」は、自らの伝える力を向上させるために、大いに学び、訓練することが大切だろう。

プロフィール

写真

佐々木 かをり(ささき・かをり)

国際コミュニケーションのコンサルティング会社、株式会社ユニカルインターナショナル、及び、株式会社イー・ウーマン の代表取締役社長。2000年より、「イー・ウーマン」サイトを展開しながら、ブランドコンサルティング、商品サービス開発、人材研修などを手がける。1996年より毎夏開催の「国際女性ビジネス会議」実行委員長。上場企業の経営委員、政府委員も多数務める。テレビのコメンテータも。著書に「佐々木かをりの手帳術」(日本能率協会マネジメントセンター)「自分が輝く7つの発想」(光文社・知恵の森文庫)など多数。2児の母。ブログも好評

イー・ウーマン

イー・ウーマンは、「生活」と「ビジネス」の両方の視点を持った働く女性たちの知恵を活かして経営課題を解決する、マーケティング及びコンサルティング会社。新商品開発からブランドコンサルティングなどを、企業などに提供。

PR情報
検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介