トルコ、「禁酒令」で揺らぐ世俗主義
【イスタンブール=木寺もも子】イスラム教でありながら「世俗主義」が国是で飲酒に寛容なトルコで、政府が酒類への規制を強めている。表向きの理由は新型コロナウイルス対策だが、イスラム保守層の支持を獲得しようとするエルドアン大統領の狙いも透けてみえる。
トルコ政府は4月末、ラマダン(断食月)後の休暇が明けるまで計19日間の全面外出禁止を発表した際、期間中の酒類販売は認められないとの見解を口頭で示した。小売業者の業界団体などは「法律的根拠がない」などと反発、一部は外出禁止が始まった後も販売を継続した。政府はこれに対し、新たな政令で酒類を含む「不要不急」の商品販売を禁止とした。
トルコは飲酒に寛容で、都市部では日中からテラスで酒を飲む人も珍しくない。名物の蒸留酒ラクのほか、「エフェス」など国産ブランドのビールやワイン製造も盛んだ。だが、イスラム教の価値観を政治に反映させることを重視するエルドアン氏は、政権を取った2002年以降、段階的に酒類への課税を強化したほか、13年には法律で一切の広告や午後10時以降の販売を禁止するなど否定的な態度をとってきた。
シンクタンク、自由調査協会(OAD)のイスラフィル・オズカン氏は「コロナを理由に今後も規制を強め、将来的には外国人観光客以外の飲酒禁止を実現させたいと考えているだろう」とみる。米ワシントン近東政策研究所のソネル・チャアプタイ氏は「経済が失速する中、価値観を巡る対立をあおって(イスラム保守層を基盤とする)自らの支持を回復させようとしている」と指摘する。
信仰心が高まるラマダン中に酒類への規制を強化することは、人口の多数を占める敬虔(けいけん)なイスラム教徒の民意を反映しているともいえる。19年の統計局調査では15歳以上の74%が「一度も酒を口にしたことがない」と回答した。
だが、宗教と政治・社会を分離する世俗主義はトルコが1923年の建国以来掲げる国是だ。外食や、知人を訪ねてのホームーパーティーもできない外出期間中に酒類が買えないのは「憲法違反」「感染拡大防止と関係がない」などと反発する声がインターネットなどであふれる。モスクでの礼拝は原則、認められることも議論に拍車をかけている。
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