最新記事

債務上限

デフォルトを人質に墓穴掘るティーパーティー

債務上限引き上げに抵抗して米経済に危機をもたらしかねない共和党強硬派に、ウォール街の怒りが向き始めた

2011年7月29日(金)18時22分
デービッド・ケース

怪気炎 ミシェル・バックマンなどティーパーティー派議員は、上限引き上げに歩み寄る党上層部に噛み付いている Jason Reed-Reuters

 ウォール街や財界は、米共和党を乗っ取ったティーパティー(草の根保守派運動)の扇動的な動きにいらだっているだろうか? 連邦政府の債務上限引き上げに強硬に反対することは保守派、特にティーパーティーにとって裏目に出るだろうか。それは共和党にとって致命傷にならないか?

 世界の金融エリートが愛読する英経済紙フィナンシャル・タイムズを読めば、そうだと思わずにいられない。

 債務上限(現行14兆3000億ドル)の引き上げで民主・共和党が合意出来なければ、世界経済が破滅するという不安で市場が緊張する中、ウォール街ではすでに危機の兆候が出ている。7月28日の株式市場は5日連続で下落。ダウ平均は3.3%下落し、このままのペースで行けば「2010年8月以降で最悪の下落幅を記録した週」になる、とウォールストリート・ジャーナルは指摘した。

 投資家たちは米国債を買い控えている。これは景気後退圧力を予想させ、債務上限問題で政治家が適切な対処をしなければ金利は上昇し、ほぼ確実に増税につながる(米国債の格付けが下げられ、国債の利払いが増えるため)。

 失政の元凶は何か。「ティーパーティーの強硬派だ」と、フィナンシャル・タイムズのステファニー・キルチガエスナーは鋭い分析をしている。彼女は今の混乱を、ボクシングのリングで2人の男が「共和党の魂のために戦っている」姿にたとえた。

財界と共和党の間の深い溝

 一方のコーナーに立つのは、下院で最も影響力のある保守派の1人で、ティーパーティーの支持を受けるジム・ジョーダン議員。彼は、オバマ政権が国家破綻の可能性をちらつかせて脅し作戦を展開していると非難する。あらゆる合理的な根拠にもかかわらず、ジョーダンはアメリカ国債の格下げが経済に打撃を与えるとは考えていないようだ。

 ジョーダンは自身が所属する共和党の上層部にもたて突いた。経済のメルトダウンを避けるために債務上限を引き上げようとするジョン・ベイナー下院議長の打開案に反対し、他の保守派議員の造反も促している。

 もう一方のコーナーに立つのは、「超攻撃的でチェーンスモーカーの、米国商工会議所のロビイストであるブルース・ジョステン」と、キルチガエスナーは書く。言うまでもなく商工会議所は、大企業の代理としてワシントンで強い影響力を持つ団体だ。

 ここが難しいところだ。米経済に悪影響を及ぼす(共和党という)怪物が生まれたのは、ジョステンたちの力によるところが大きい。その彼らが、もはや怪物を制御出来なくなっている。

 「(ティーパーティー派議員の躍進が目覚ましかった)2010年の中間選挙で、商工会議所はおそらくどの団体よりも多額の資金援助を共和党に行い、その圧勝を助けた」と、キルチガエスナーは指摘する。「国家のデフォルト(債務不履行)の危険が1週間以内に迫る中、反政府的なティーパーティーと財界の間には深い溝が生まれている」。今こそ、商工会議所の実力が「切実に試されているのだ」。

 フィナンシャル・タイムズの社説も、今後大きな変化があるだろうと論じている。「投資家からすれば、米政界は不必要な財政危機の瀬戸際に近づき、そのまま飛び降りるかどうか真剣に議論しているようなものだ。彼らがそれを忘れることはないだろう」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ICJ、イスラエルにラファ攻撃停止を命令 1カ月内

ワールド

ガザ支援、ケレム・シャローム検問所から搬入 米・エ

ワールド

ゼレンスキー氏、ウクライナ大統領の正当性失う=プー

ビジネス

ダンスケ銀行とバークレイズ、ECB利下げ見通しを修
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

  • 2

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 3

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリン・クラークを自身と重ねるレブロン「自分もその道を歩いた」

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 6

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 7

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 8

    テストステロン値が低いと早死にするリスクが高まる─…

  • 9

    日本を苦しめる「デジタル赤字」...問題解決のために…

  • 10

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中