貧困、いじめ、犯罪…中国残留孤児の子や孫世代の不良集団「怒羅権」メンバーが更生までの道つづる

2021年3月4日 17時00分
 中国残留孤児2世、3世らが1980年代に結成した不良集団「怒羅権ドラゴン」の創設期メンバーだった汪楠ワンナンさん(48)が回顧本「怒羅権と私」(彩図社)を出版した。貧困といじめを背景に犯罪に手を染めた後、更生するまでの半生をつづっている。本は交流を続ける受刑者に送る予定で「読書によって自分も変わった。一回失敗してもやり直せる社会を目指したい」と語る。 (佐藤大)

◆差別に対抗するためだったが…

 汪さんは、中国人の父親が残留孤児の日本人女性と再婚し、1986年に14歳で来日。東京都江戸川区での暮らしは貧しく、ほとんど日本語を話せなかったため、学校でいじめられた。いじめや差別に対抗するため、同じような境遇の残留孤児2世ら12人で怒羅権を結成。やがてけんかに明け暮れ、ナイフで刺すことすらためらわないようになった。

「ほんにかえるプロジェクト」で受刑者に送る本の前に立つ汪楠さん=東京都江戸川区で

 28歳で窃盗・詐欺容疑などで逮捕され、旧知の弁護士に再会したことで自らの罪と向き合うようになった。懲役13年の判決を受け岐阜刑務所に入り、支援者から送られた本を読んで内省を深めた。「勉強する機会ができ、自分の問題を客観視できるようになった」

◆自らの体験、思いを受刑者に

 出所後の2015年から、寄付で集めた本を全国の受刑者に差し入れる「ほんにかえるプロジェクト」を続けている。その延長で自著も送る。
 過去を正当化するつもりはないが、追い詰められた結果、「怒羅権」ができたという経緯は書き残しておきたかったという。仲間を助ける活動が犯罪集団に変質していったことには、じくじたる思いがある。
 怒羅権は現在も存続し、一般市民と暴力団の中間を意味する「半グレ」集団の代表格とされる。半グレは暴力団のように明確な組織性はないものの集団的、常習的に不法行為をするとして、警察庁は13年に半グレ集団を「準暴力団」と規定し、実態解明と取り締まりを強化している。

◆支援によってできた絆大切に

 汪さんは現在の怒羅権メンバーとは距離を置いている。犯罪への誘いは今でもあるというが、それに乗ることはないと誓う。「今あるものをなくしたくないのと、結婚したしね。支援によって人とのつながりができ、社会もそんなに悪いもんじゃないなあ、と」

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