【特集】中学高校を貫く探究学習で将来の進路が見えてくる…成蹊

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 成蹊中学・高等学校(東京都武蔵野市)は近年、中1から高2まで一貫した探究学習の体系化を進めている。昨年度は、高校の学習旅行プランを生徒が計画してプレゼンテーションする仕組みを作り、中学でも新たに学年ごとの探究学習の取り組みをスタートさせた。外部の探究系のコンテストへの参加も盛んだ。探究学習を強化する狙いや、参加する生徒の姿勢の変化などについて仙田直人校長に取材した。

さまざまな探究系の学習・行事を体系化

「大正製薬」と連携して探究した「若年層に受け入れられるリポビタンDパッケージ」のデザイン
「大正製薬」と連携して探究した「若年層に受け入れられるリポビタンDパッケージ」のデザイン

 同校で3月11日、大教室を会場に成蹊中学・高等学校同窓会委員会が開かれ、その場で中1、中3、高1、高2の生徒による探究学習成果のプレゼンテーションが披露された。

 中1生のチームは、学年目標である「セカイをChange!」をテーマにこれまで取り組んできた「音楽と心のつながり」について発表した。1人1台のタブレットを活用して、自作の曲を発表に組み込むなど工夫に富んだ発表になったという。中3のチームは「 (へき) 地における医療問題」をテーマに発表を行った。

 ほかにも、高校生国際シンポジウムの全国大会で優良賞を受賞した「子宮頸がんワクチンをめぐる新聞報道」と題した高2生の発表、「大正製薬」(東京都豊島区)と連携し、マーケティング理論を学びながら「若年層に受け入れられるリポビタンDパッケージ」を考えた探究の発表もあり、プレゼンテーションの質の高さとバリエーションで同窓生たちを感心させたという。

 同校が探究学習に本腰を入れるようになったのは、仙田校長が就任した2021年度からだ。「成蹊は創立当初より、多様な個性を尊重し合いながら、リベラルアーツを重視した幅広い学びを行ってきました。探究学習が言われるずっと前から、課題解決型の学習を行っており、私はそれぞれの学年でやっていたことを、体系化したのです」と仙田校長は話す。

 新学習指導要領で高校に「総合的な探究の時間」が導入された22年度は、中学でも探究学習の取り組みを拡大した。同校では、校名の由来にちなんで「道徳」の授業を「桃李」と呼び、この道徳の時間を充てて探究学習を行っている。中1生と中3生の発表は、この1年間の探究の成果だ。今年度から中2生の探究も開始している。

 伝統の高校学習旅行も「より探究らしい学びにしよう」と昨年度、仙田校長が提案し、生徒全員が参加して行く先や日程を計画する「学習旅行×探究」の形に刷新された。

 学習旅行のプラン作りは22年10月から始まり、高1生約340人が88チームに分かれ、約2か月かけて旅行先やテーマなどを話し合い、プランを練った。年明けの1月にクラスプレゼンテーション大会が開かれ、この1次選考を通過した9チームが2月16日の「学習旅行×探究 プレゼン大会」に進んでプレゼンテーションの腕を競った。

「学習旅行×探究 プレゼン大会」で宮古島の星空の美しさをアピールした高山さんのチーム
「学習旅行×探究 プレゼン大会」で宮古島の星空の美しさをアピールした高山さんのチーム

 旅行会社5社による審査と生徒投票の結果、「ばっしらいん宮古島~記憶に残る美しい旅を~」と題したプランについて発表した高山由莉さんら(現高2)のチームが優勝した。「ばっしらいん」とは宮古島の方言で、「忘れられない」の意味だという。

 沖縄・宮古島を訪れて、島の自然と文化、歴史を学ぶプランになっており、「東洋一美しいビーチ」と言われる与那覇前浜、雪塩ミュージアム、宮古島市総合博物館などを巡る。現地の星空の美しさがポイントだと高山さんは言う。

 「宮古島には沖縄本島とは違う独自の文化があります。行ったことのあるメンバーが星空の魅力を存分に語ることで優勝することができました。メンバーの一人が頑張るのではなく、一人一人の得意なことを合わせると、企画の質が格段に上がりました。他人の意見を取り入れることが大事だと実感しました」

 プレゼンテーション大会で上位に輝いた七つの旅の企画は、実際に今年度の高2の学習旅行として実現する方向で検討しているそうだ。

 ほかにも昨年度は、これまでの高2の家庭科の課題研究を、学年全体で取り組む探究学習「成蹊家庭科シンポジウム」とし、外部審査員も招いて発表するようにした。「子宮頸がんワクチンをめぐる新聞報道」についての発表もこの探究活動から生まれたものだ。

有志で地域の課題や企業からのミッションに取り組む

 学年全体を対象にした取り組みのほかに、有志で参加する仕組みもある。昨年度、中3から高2の希望者を対象として新たに開始した「SEIKEI STARTUP CAMP」もその一つだ。長崎県の五島列島を訪れて現地の問題を考えた探究の発表は、この取り組みの成果だ。

 参加した12人の生徒は、「教育」「医療」などをテーマに地域の課題を事前学習したうえ、8月29日から9月2日にかけて現地を訪れ、長崎県立福江高等学校の生徒とディスカッションしたり、五島市役所、五島観光協会の担当者からヒアリングしたりして課題と解決策を探り、最終日には地元の人たちの前で各班によるプレゼンテーションを実施した。

 実在の企業のミッションや社会課題に取り組む「クエストエデュケーション」への参加もそうした有志による探究の機会だ。仙田校長の就任前から導入していたが、昨年度、担当教員を1人から5人に増やし、高校生だけでなく中学生にも参加者を広げた。

 昨年度、「クエストエデュケーション」の成果発表会である「クエストカップ」に参加した加賀美 (しん) 君(現高2)は、高1と高2の4人チームで、電池の製造・販売会社「パナソニックエナジー」から出された「100年後の地球に向かって『一人ひとりのイキイキ』を解放する新プロジェクトを提案せよ!」というミッションに挑戦した。

「クエストカップ」で提案した着られるディスプレーTシャツについて発表した加賀美君のチーム
「クエストカップ」で提案した着られるディスプレーTシャツについて発表した加賀美君のチーム

 加賀美君らが提案したのは、「WEIC-up(ウエイク・アップ)」という着られるディスプレーTシャツだ。「Wearable、Eco-friendly、イキイキ、Clothesの頭文字をとって名付けました。Tシャツにバッテリーを薄くしたディスプレーがついていて、自分で描いたイラストや動画を映せます。体温など着ている人の健康状態も把握できます。また、100年後の地球はクリーンな電気が必要なので、太陽光と体の動きに連動して発電できる機能も付けました」と加賀美君はアイデアを説明する。

 プレゼンテーションの結果、全国約300校、5万7000人が参加するなか、コーポレートアクセス部門の予選で優秀賞に選ばれ、全国大会にも出場を果たした。

探究学習で目的意識がはっきりすると進路も明確に

「探究学習をすると、そのテーマについての目的意識がはっきりして進路も明確になります」と語る仙田校長
「探究学習をすると、そのテーマについての目的意識がはっきりして進路も明確になります」と語る仙田校長

 中1から高2までの探究学習が体系化されたことで、生徒の姿勢にも変化が生まれたという。

 高山さんは「さまざまな探究活動に挑戦している友達が多く、周りの姿勢に後押しされて、私もいろいろ挑戦しようと思いました」と言う。現在は、生徒会や地域の活動にも参加している。さらに、「三鷹市市民参加でまちづくり協議会~Machikoe(マチコエ)~」にもボランティアとして参加し、防災について話し合う活動をしているそうだ。

 加賀美君も「クエストエデュケーションに参加して外部の企業の人と触れたことで、『もっと自由な発想をしていいんだ』と知り、もっと外の世界を知りたくなりました」と言う。春休みには米カリフォルニア大学デービス校へ短期留学に行き、夏休みにもケンブリッジ大学への短期留学を計画しているそうだ。

 今春、東京大学に合格した3人の卒業生のうち、1人は推薦入試の合格者で、「都市の建築をやりたい」という目的がはっきりしていたという。「医療的ケア児」に関する探究学習をした生徒も国立大学医学部へ進学したそうだ。

 「進路選びは目的意識が大切です。探究学習をすると、そのテーマについての目的意識がはっきりして進路も明確になります」と仙田校長は言う。「本校は国際理解教育にも力を注いでいますから、今後は海外でも探究をやっていきたい」と抱負を語った。

 (文:小山美香 写真:中学受験サポート 一部写真提供:成蹊中学・高等学校)

 成蹊中学・高等学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら

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