史上2番目の大量絶滅、原因は有毒金属とする新説

化石から予想の100倍超の奇形生物見つかる

2015.09.16
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写真のような珪藻類は、海中で高濃度の金属にさらされると奇形を起こすことがある。最新の研究によると、鉛などの金属が古代の海洋生物に奇形を引き起こし、史上2番目に大きな大量絶滅につながったという。(Photograph by Bill Curtsinger, National Geographic Creative)
写真のような珪藻類は、海中で高濃度の金属にさらされると奇形を起こすことがある。最新の研究によると、鉛などの金属が古代の海洋生物に奇形を引き起こし、史上2番目に大きな大量絶滅につながったという。(Photograph by Bill Curtsinger, National Geographic Creative)
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 史上2番目に大きいとされる4億年前の大量絶滅は、海中で爆発的に増加した有毒金属が原因だった可能性があるとする論文を、フランス、リール大学などの研究チームが学術誌「Nature Communications」に発表した。高濃度の鉛、ヒ素、鉄などが、古代の海で繁栄していたプランクトンに似た微生物に重度の奇形を生じさせたという。(参考記事:「三畳紀末の大量絶滅、原因は溶岩の噴出」

 この大量絶滅は、4億4500万年前~4億1500万年前、オルドビス紀からシルル紀にかけて起きた。当時、地球上の生物はほぼすべて海中に生息していたが、全生物の85%が消え去った。地球の歴史上、過去5度ある大量絶滅のうち2番目に規模の大きいものである。(参考記事:「6度目の大絶滅を人類は生き延びられるか?」

 原因についてはこれまで、急速な気温低下や火山ガスによる大気汚染、極超新星の爆発など、さまざまな説が提示されてきた。しかし、今のところ決定的な証拠は見つかっていない。

 今回発表された論文は、海の化学成分の変化に注目している。海底にはもともと金属が沈殿しているが、栄養分の増加(富栄養化)などによって海の酸素濃度が低下すると、そうした金属が水に溶け出す。結果、金属への接触が増えたプランクトンに奇形が起こったと考えられる。

アンシロキチーナ(Ancyrochitina)というプランクトンに似た生物の化石。右が正常なもので、左が奇形を起こしているもの。(Photograph by Thijs R.A. Vandenbroucke and Poul Emsbo)
アンシロキチーナ(Ancyrochitina)というプランクトンに似た生物の化石。右が正常なもので、左が奇形を起こしているもの。(Photograph by Thijs R.A. Vandenbroucke and Poul Emsbo)
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「複数の個体が結合したものや、器官が通常の数倍に大きくなった個体、つながった卵を思い浮かべてください」と、論文の著者である古生物学者タイス・ヴァンデンブルック氏は語る。

 ヴァンデンブルック氏の研究チームは、リビア砂漠に掘られた深さ2000メートルの穴から採掘した化石を分析した。この化石からは予想より100倍も多くの奇形の例が見つかり、重金属濃度は最大で予想の10倍に達した。奇形はとくに、キチノゾアンと呼ばれるボトルのような形状をした生物に顕著に現れていた。

 論文の共著者で、米国地質調査所の地球化学者ポール・エムスボ氏によると、同様の奇形は今日の海水・淡水生物にも見られ、これは高濃度の有毒金属にさらされた証拠だという。たとえば現生の珪藻類はきれいな形の殻に覆われているが、「その殻がジグザグにゆがむなど、変形している例が見られます」。こうした珪藻類の奇形は、水の金属汚染を調べる際の手がかりとされている。(参考記事:「赤く染まる豪州の海、藻が大量発生」

珪藻類はきれいな形の殻に覆われているが、海中の金属にさらされるとその殻が奇形を起こすことがある。(Photograph by D.P. Wilson, FLPA, Minden Pictures)
珪藻類はきれいな形の殻に覆われているが、海中の金属にさらされるとその殻が奇形を起こすことがある。(Photograph by D.P. Wilson, FLPA, Minden Pictures)
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 太陽光やpH濃度、塩分濃度の変化によっても海洋生物の奇形は起きるが、オルドビス紀からシルル紀にかけての大量絶滅の初期に、こうした変化が起きた証拠はほとんど見つかっていない。このため、きわめて高濃度の有毒金属が絶滅の原因であったと考えられ、他の時期の大量絶滅においても何らかの影響を及ぼした可能性がある。

 重金属は貝の形成を阻害し、また魚、鳥、人間の体にも有害だ。鉛はあらゆる脊椎動物にとって有毒であり、ヒ素はガンの原因となる。

 なぜ海中の酸素欠乏が生じたのかは定かではないが、おそらくは窒素などの栄養分が増えたことで植物の成長が加速し、酸素を使い果たしてしまったのだろうと推測される。

 現在、デッドゾーンと呼ばれる酸欠海域が世界各地で拡大している。たとえば米国ミシシッピ川河口では、都市部や農場から窒素を豊富に含む排水や肥料が流れ込み、巨大な酸欠海域が生じている。さらには温暖化の影響で深海の酸素が減少し、非常に広範囲の海域が、海洋生物が生息できない状況に陥っているという。(参考記事:「「海の酸性化からサンゴを守る応急処置」

 こうした海域では、今後さらに重金属の濃度が高まる可能性もあるが、過去に大量絶滅を引き起こしたような規模になることはまずないだろう。

 それでも「論文では古代の海の変化に注目していますが、現代の海にも類似する点があります。人間が世界の海に流出させている物質が引き起こす現象を解明するために、この研究が大きな一助となるかもしれません」とエムスボ氏は言う。

【フォトギャラリー】海を支える小さな生命

文=Cheryl Katz/訳=北村京子

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