紹介記事
「ゾイドワイルド」展開中の今,「ZOIDS 帝国VS共和国 メカ生体の遺伝子」をあえて紹介。初代アニメ世代の世界観を広げてくれた名作を振り返る
「ZOIDS」はこれまでに,1983年から1991年までの「メカ生体ゾイド」(第1期),初のアニメ展開が行われた1999年から2006年までの「機獣新世紀ゾイド」(第2期)が展開されていた。
また,2018年には従来のシリーズとは異なる世界観で描かれる「ゾイドワイルド」(第3期)が展開され,子どもを中心に広く人気を博している。
ZOIDSシリーズは主力となる玩具のほかにも,児童誌,アニメなど幅広くメディア展開が行われており,もちろんゲームも例外ではない。
「ごじゅらす かくごしろ」で有名なファミコン用ソフト「ゾイド 中央大陸の戦い」をはじめ,アニメの世界観を元にしたオリジナルストーリーが描かれる「ZOIDS SAGA」シリーズ,アーケードタイトル「ゾイド インフィニティ」,アニメ「ゾイドワイルド」の格闘アクション「ゾイドワイルド キングオブブラスト」など,これまでに多くのタイトルが発売されている。
本稿で紹介するPS用ソフト「ZOIDS 帝国VS共和国 メカ生体の遺伝子」(以下,メカ生体の遺伝子)もそんなタイトルの1つだ。2000年11月25日に発売された本作はゾイドファンの間の中でも特に人気が高いゲームで,来年には発売20周年を迎える。
そこで今回は,そんなアニバーサリーイヤーを控えた「メカ生体の遺伝子」を第2期世代の筆者が振り返りたいと思う。
ガリウス……? ザットン……? アニメとは異なる硬派な世界観に驚愕
本作は,惑星Zi(ゾイド星)にある専制君主国家のゼネバス帝国と自由民主国家のへリック共和国の中央大陸を巡る戦いを追っていく,ターン制のストラテジーゲームだ。両国の政治思想の違いに端を発する泥沼の戦争を描いたシナリオや,へックス形式のバトルマップ,淡々と状況確認が行われるブリーフィングなど,作品には全体的に硬派な雰囲気が漂っていた。
プレイヤーは共和国と帝国いずれかの陣営を選択し,共和国を選んだ場合はヘリック大統領の影武者として,帝国の場合はとある隊の将校として軍を率いて戦う。
本作のシナリオはZOIDS第1期の「メカ生体ゾイド」で描かれたバトルストーリー「中央大陸戦争」をベースにしており,登場するゾイドもそれに準拠したものになっている……のだが,前述のとおり,本作が発売されたのは2000年の11月である。
シリーズとしては,ゾイドは第2期となる「機獣新世紀ゾイド」が展開されている最中であり,テレビアニメ「ゾイド -ZOIDS-」がまさに最終局面を迎えようとしていたときだった。つまり,本作は初代アニメの絶頂期に,あえて第1期の世界観をベースにして作られたゲームなのである。
アニメ放送当時,筆者は小学生。ZOIDSは学校でも大流行していた。放課後は毎日のように友人の家へ玩具を持ち寄って遊んでいたし,ウルトラザウルスやデスザウラーといった大型キットは皆の憧れの的だった。今風に言うなら,持っている人だけでマウントを取れた羨望のグッズだったのだ。
そんな初代アニメ直撃世代だけに,本作を初めてプレイしたときには,まあ面食らった。ヘリック共和国と戦っているのはアニメに出てくるガイロス帝国ではなく,ゼネバス帝国だし,戦いの舞台となる大陸も違う。ゲーム序盤で登場するゾイドもガリウスやザットンといった知らないゾイドだらけで,かろうじてゴドスやモルガ,イグアンが分かるくらいだった。
今なら同作が,第1期を楽しんだ大人に向けたゲームだったと分かるが,筆者は「PSでゾイドのゲームが遊べる!」というだけで,ろくに調べもせずジャケ買いしてしまったので,そのギャップに戸惑うことになったのだ。
ゾイドが撃つ! 蹴る! 壊れる! 3DCGで描かれる迫力のバトル
最初は驚きを隠せなかったものの,ゲームをすぐにやめてしまうようなことはなかった。というのも,メカ生体の遺伝子は“ZOIDSのストラテジーゲーム”としてとても良くできていたのだ。
本作は,それぞれのゾイドたちが持つ個性が“特性”としてゲーム内でうまく表現され,それを生かして戦うことが重要になってくる。
例えば,コマンドウルフやモルガといったステルス特性を持った機体は,敵の進路上に配置すれば,奇襲戦法を仕掛けられるし,水上専用ゾイドで地上の敵を一方的に狙い撃ちできる。また,ステージによっては「一点突破」や「分散して戦う」などの複数の作戦パターンが用意されており,自軍ゾイドの特性を生かせる戦略を選択できたのである。
ゾイドたちによるバトルシーンもゲームを大きく盛り立てた。本作のバトルはターン制のコマンド式でどちらかのゾイドが倒れるか,逃亡すると戦闘が終了する。戦うゾイドたちはすべて3DCGで描かれているほか,カメラワークや戦闘モーションもかなり凝っており,迫力あるバトルが楽しめた。
さらにバトルシーンの見どころとして特にフィーチャーしたいのが,ゾイドの“やられシーン”である。本作はやたらとゾイドの撃墜モーションにこだわっており,すべてのゾイドに専用のアニメーションがつけられている。大型ゾイドになると,やられ専用のカットが挿入されるという徹底っぷりだ。
相手ゾイドを倒したときは高揚感を与えてくれるし,味方ゾイドがやられたときは申し訳ない思いと共に「お前の死は無駄にしないぞ……!」と気持ちを引き締めてくれる。ゲームの良いスパイスとして働いてくれていたのだ。
本作を,純粋なストラテジーゲームとして見ると,「攻撃の命中率がめちゃくちゃであまりあてにならない」「ステータスと攻撃力の仕組みがいまいち分かりにくい」など,気になる点もある。しかし,それをおぎなって余りあるくらいゾイドの見せ方が巧みで,ZOIDSのキャラゲーとしてなら,本当に完成度の高い作品だった。
各ゾイドの特性を生かしてうまく運用すれば,小型ゾイドが大型ゾイドを叩きのめすといった番狂わせが起きることも決して珍しくない。言い換えれば戦いを有利に運ぶためにはプレイヤーがゾイドの特性を知る必要がある。
たとえ知らないゾイドでも,特性を理解すればそれに応えてバトルで大暴れしてくれるし,知っているゾイドであっても意外な一面が発見できることもある。筆者もどんどん昔のゾイドを好きになって,その世界観に引き込まれていったのである。
その名はマッドサンダー。アニメ世代の筆者を驚愕させた要塞ゾイド
さて,そんなこんなで昔のゾイドをどんどん好きになっていた筆者だが,その中で特にイチオシの機体が「マッドサンダー」である。このマッドサンダー,古くからのファンには対デスザウラー用の決戦兵器として誉れ高い存在なのだが,本作に登場する多くのゾイド同様,アニメには登場していない。
「メカ生体の遺伝子」でのマッドサンダーは,デスザウラーと対をなす共和国最強のゾイドとして描かれており,帝国編で敵として初登場する際に流れるムービーでは,ミサイル攻撃をものともせず,アイアンコングを次々と串刺しにしていくという鮮烈なデビューを飾った。
物語後半で活躍する主力の大型ゾイドは,大半がアニメでも活躍していたゾイドだったので,突如登場したマッドサンダーは衝撃だった。アニメにも登場していない,おもちゃ屋さんでキットを探しても見つからない,そんな見たこともない超強力なゾイドが,目の前に立ちはだかったのだ。
それ以来,マッドサンダーはずっと筆者の中では大きな存在だ。数年後にキットが再販されたときは,飛び上がるくらい喜んだのも良い思い出だ。
ギル・ベイダーやキングゴジュラスなど,後々大人になってもっと強いゾイドがいるのも知ることになるのだが,筆者の心の中には今でも「メカ生体の遺伝子」でのマッドサンダーが,忘れられない最強のゾイドとして残っているのである。
第1世代には懐かしく,第2世代には新たな世界を広げた良作。それがメカ生体の遺伝子だ
メカ生体の遺伝子は,メカ生体ゾイド世代のファンには懐かしく,アニメを見てゾイドを知った機銃新世紀ゾイド世代の筆者にとってはZOIDSの世界観を大きく広げてくれた良作だった。
小型ゾイドの軍団から始まり,ゲームが進んでいくにつれゴジュラスなどの花形たちが登場していく流れは,さながらゾイドの歴史を追体験しているようで嬉しかったし,マッドサンダーを始めとしたアニメには登場しないゾイドたちとも出会えた。
そして戦いの果てに待つエンディングでは,終わりのない戦争を示唆させる幕引きで,兵器として朽ちていくゾイドたちの姿が映し出される。すがすがしい結末を迎えたアニメとは違い,「人の争いに巻き込まれたゾイドが一番の被害者なのでは?」と,子どもながらにいろいろと考えさせられたものだ。
2018年に始まった「ゾイドワイルド」は,メカっぽさを抑え,今までのシリーズとはイメージを変えて子どもたちに大ヒットを飛ばした。ゾイドの復活は子どものころに夢中になった身としては本当に喜ばしいことだし,今やすっかりオッサンになった自身もかなりハマっている。おもちゃ売り場で子どもがゾイドをねだる姿を見ると嬉しい気持ちになるのは筆者だけではないはずだ。
ただ,かつてのZOIDSに触れた身としては「今の子どもにも昔のゾイドを見たらどう思うのだろう」「昔のゾイドを絡めた展開はないのだろうか」という思いが脳裏をよぎることもあるのも事実だ。
昔のハードな路線が今の子どもたちにどう受け入れられるのかは分からない。しかし,第1期世代には懐かしく,第2期世代にまだ見ぬ世界を広げてくれた,メカ生体の遺伝子のような事例もある。子どもをメインターゲットする路線は変わらずに,今後はそういった昔のゾイドにもフィーチャーしてくれるような取り組みにもファンとしては期待したいと思う。
「ZOIDS」公式サイト
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