前編はコチラ

北海道を拠点とし、個性的な俳優や名企画を次々と生み出してきたクリエイティブオフィスキュー。社長である鈴井亜由美さんは、夫である鈴井貴之さん(ミスター)、今やドラマに映画と引っ張りだこの売れっ子俳優となった大泉洋さん、彼が所属する演劇ユニット「TEAM NACS」の東京進出を支えた名プロデューサーであり、オフィスキューの母とも姉とも慕われる存在。
どうでしょうファンには“副社”の愛称でおなじみだったが、創業20周年を迎えたのを機に、社長就任。11月2日にはオフィスキュー創業20周年を記念し、その歴史を振り返る単行本『CUEのキセキ 〜クリエイティブオフィスキューの20年』(メディアファクトリー)を刊行した。

ーー“水曜どうでしょう”でのミスターについて、大泉洋さんが「『会社の社長と一緒に番組に出ている』って意識はなかった」とコメントされています。ロケ先と社内では、また違っていたりするのでしょうか。

鈴井亜由美(以下、亜由美) 基本的に鈴井は社長らしいことは一切してきていないんですよ。「経営」や「人を育てる」といったことに、まったく興味がない。
むしろ、自分も一人のアーティストとして、うちの所属タレントの子たちをライバル視している節があるんです。

ーー今回の本に登場するTEAM NACSインタビューの中にも、大泉さんが「余計なことを言うと、僕はキミをつぶすかもしれない」と言われたというエピソードがありました(笑)

亜由美 ホント、恥ずかしいからやめてほしいですよね(笑)。今回の本の中にも書かれていますが、まだ知り合って間もない頃、TEAM NACSの“リーダー”、森崎博之にも、鈴井が喧嘩をふっかけていたらしいんです。いい大人が学生相手に何やっているんだか……。

ーーミスター……。当時は学生だったTEAM NACSも、今やアラフォー。
映画やドラマ、舞台、声優と活躍の幅も知名度も広がっています。

亜由美 彼らとは長い間、母親と息子のような感覚で接してきましたけど、じつはそんなに年齢も変わらないんですよね。20年の間に、それぞれが家庭を持ち、一家の大黒柱になって、しっかりしてきている。CREATIVE OFFICE CUEがつくりあげてきたこと、大切にしている価値観を彼らがいろいろな場所で発信してくれているのもありがたいですね。アーティストであると同時に、経営者の一人でもあるような感覚があります。

ーーミスターと逆ですね(笑)。

亜由美 そうですねぇ。「アーティストに専念したいから」と鈴井の強い要望があって、彼が会長、私が社長になりましたが、仕事内容としては正直これまでと何も変わっていないんですよね。ご本人が「どうしてもけじめをつけたい」というので、わかりました、と。

ーー精神面での変化はどうですか。

亜由美 それが、全然変わっていなくて……。みなさんに「社長就任おめでとうございます」と言われるたびに申し訳なくなるくらい(笑)。
もともと、肩書きにはあまり興味がないんです。その場で求められる役割を果たせれば、それでいいんです。

ーー「自分がこうありたい」というより「相手の期待に応えたい」が先に立つということでしょうか。

亜由美 人を驚かせたり、喜ばせたりするのが楽しくてしかたがないんですよね。子どもの頃も、率先してお誕生日会の幹事をやっては、周囲を巻き込んでサプライズを仕掛けていました。常に「相手ありき」で考えてしまう癖がついているし、周囲を巻き込んで誰かと一緒にやっていきたいという思いが強いんですね。
我々は「お客様あってのサービス業」をベースにしたクリエイティブを追求したいと思っています。

ーー好きなことをやりたいようにやっているだけに見えて、じつは徹底的にお客さんのことを突き詰めている。

亜由美 「水曜どうでしょう」は<道民の道民による道民のための番組>を標榜していたけれど、私たち自身も北海道からのものづくり、北海道からの発信にこだわってきました。これからもそのスタンスは変わらず、北海道から無数の「きっかけ」をお届けし続けたいと思います。

(島影真奈美)