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ポルシェやフェラーリ、そしてランボルギーニも
自動車メーカーが手がけた「自転車」を考える

2018.03.21 デイリーコラム 下野 康史

ランボの“ニューモデル”がジュネーブでデビュー

2018年3月7日、ジュネーブショーで1台の“自転車”がデビューした。「サーヴェロP5Xランボルギーニ・エディション」。ランボルギーニの新型SUV「ウルス」の脇に展示されたこれは、カナダの自転車メーカー、サーヴェロとランボルギーニがコラボしたトライアスロンバイクである。

ランボルギーニのデザインセンターでデザインされた、と聞くと、ランボがついに自転車をつくったのか!? と思われるかもしれないが、そこまでのコミットではない。トライアスリート垂涎(すいぜん)の的である「サーヴェロP5X」にランボルギーニデザインのペイントワークを施した限定25台のリミテッドエディションである。

シマノの22段電動変速機、エンヴィのエアロホイール、コンチネンタルのタイヤなど、構成部品はノーマルP5Xと同じだが、サーヴェロのカーボンモノコックフレームをいっそう際立たせたのがランボルギーニの仕事だ。ウルスのイメージカラーでもあるイエローを使い、ランボルギーニがランプのデザインに多用する「Y」シェイプを連続的にあしらっている。もし出場したら、トランジションエリアやコースでこれほど目立つトライアスロンバイクはないだろう。

価格は税抜き299万円。ママチャリしか知らない人は唖然(あぜん)とするだろうが、ノーマルのサーヴェロP5Xでも220万円する。ランボルギーニのオリジナル塗装と希少性を考えれば高くない?

2018年のジュネーブショーで「ウルス」とともに展示された「サーヴェロP5Xランボルギーニ・エディション」。街で見かけるロードバイクとはひと味違う、トライアスロン用自転車だ。(写真=ランボルギーニ)
2018年のジュネーブショーで「ウルス」とともに展示された「サーヴェロP5Xランボルギーニ・エディション」。街で見かけるロードバイクとはひと味違う、トライアスロン用自転車だ。(写真=ランボルギーニ)拡大

自動車メーカーが自転車に進出した理由とは!?

四輪メーカーと自転車のコラボレーションは、昔から珍しくない。ランボルギーニがやるのも、今回が初めてではない。フェラーリは過去にコルナゴと組んでロードバイクをつくっているし、いまはビアンキとタッグを組む。

しかし、第1期のブームとも言えるのは、ふた昔前、20世紀末から2000年代初めにかけてのドイツ勢である。ポルシェ、メルセデス、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンが次々に自転車を出した。なぜか? 大きな理由は、クルマづくりの盟主が、環境対策先進国でもあったからだろう。具体的にはエコイメージの演出だ。自転車好きとしてリアルタイムにウオッチしていると、自動車メーカーのある種“みそぎ”にも見えた。

それが証拠に、最も深いコミットでも、コンセプトメーキングやフレームのデザインまでである。製造はすべてアウトソーシング。変速機、ブレーキ、足まわりのパーツも専門メーカーのものを使っている。クルマの生産ラインを自転車製造用に変えたなんていう例は、いまに至るまで、ひとつもない。イタリアの高級オートバイメーカーだったベネリが、現在は電動アシスト自転車づくりに転じていることを考えると、これからもないとは言えないかもしれないが。

2015年に発表された「Bike by KODO concept」。マツダの「鼓動」デザインコンセプトや鉄の加工技術をロードバイクで体現したもの。カッコイイけど、乗れません。
2015年に発表された「Bike by KODO concept」。マツダの「鼓動」デザインコンセプトや鉄の加工技術をロードバイクで体現したもの。カッコイイけど、乗れません。拡大
2013年にレクサスが限定100台で発売した「Fスポーツロードバイク」。自転車はギアやチェーンが付いている右側が表。裏側を向けて展示しているところが、いかにも自転車初心者(笑)。
 
2013年にレクサスが限定100台で発売した「Fスポーツロードバイク」。自転車はギアやチェーンが付いている右側が表。裏側を向けて展示しているところが、いかにも自転車初心者(笑)。
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筆者愛用の“ポルシェ”をご紹介

筆者は長年、「ポルシェの自転車」を愛用している。99年式「ポルシェ・バイクR」。ポルシェが手がけたのは、独創的なアルミフレームのデザインで、実際の製作はドイツのスポーツ自転車メーカー、VOTEC(ボーテック)による。2003年に手に入れてから長距離耐久イベント用に部品はすべて交換してしまったが、フレーム以外のオリジナルパーツは専業メーカーの既製品だった。

とはいえ、ポルシェがオーソライズして、ポルシェのバッジを与えた自転車である。ポルシェ“らしさ”はどこにあるのか? しいて挙げるなら、ボディーの頑丈さである。そのかわり、車重はカタログ値で8.9kg。当時のアルミロードバイクとしても、とくべつ軽いわけではない。だが、四輪のポルシェも昔から軽量オタクではなかった。初めてロードバイクを世に出すにあたって、軽量より剛性や耐久性を優先させたのだろうなあと、二輪ポルシェオーナーは信じている。

ポルシェだから速いか? ポルシェバイクに限らず「速い自転車」というのは存在しない。自転車を速く走らせる人間(エンジン)が存在するだけである。ただ、今後、コラボの素材が電動アシスト自転車になると、そっち方面で一挙に可能性が広がりそうだ。

当時のポルシェバイクは、つくりも品ぞろえも、四輪ブランド自転車のなかで最も本格的だったが、15年乗っていても、まだ一度も同じ自転車を見かけたことがない。最新のすばらしいカーボンロードバイクと信号待ちで並んでも、目移りしない。自転車ヒエラルキーの枠外にいる気楽さが、四輪ブランド自転車の魅力かもしれない。

(文と写真=下野康史<かばたやすし>/編集=藤沢 勝)

筆者のマイポルシェ。99年式「ポルシェ・バイクR」。わかる人には、「自転車のナローポルシェ」と説明する。ただし、ハンドルもギアもホイールもサドルもイジってあり、“オリジナル”という意味では見る影もない。
筆者のマイポルシェ。99年式「ポルシェ・バイクR」。わかる人には、「自転車のナローポルシェ」と説明する。ただし、ハンドルもギアもホイールもサドルもイジってあり、“オリジナル”という意味では見る影もない。拡大
ポルシェのロードバイクはこのあと、軽量なカーボンフレームにモデルチェンジする。その後、2007年からしばらくお休みしていたが、2016年に復活した。
ポルシェのロードバイクはこのあと、軽量なカーボンフレームにモデルチェンジする。その後、2007年からしばらくお休みしていたが、2016年に復活した。拡大
下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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