問題を部分的に解決するのではなく、全体最適の視点から根本的な問題(ボトルネック)を探し、解決していく手法。生産現場や企業全体の改革手法として使われる。

 肩こりや腰痛を解消しようと、マッサージを受けたり湿布したりしても、一向に症状が収まらないことがあります。そもそもの原因が、ストレスや内臓疾患など患部以外にある場合があるからです。

 企業の場合も同じでしょう。過剰在庫や欠品、製造開始から顧客に届くまでのリードタイムの長さ、販売機会の損失など、業務がうまく回っていない症状はいくらでもあります。業務改革においては、症状が表れている個所の改善にとどまらず、企業活動全体のなかから症状の根本的な原因(ボトルネック)を探し出し、改革を進めるべきでしょう。

 「TOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)」は、問題点を部分的に解決するのではなく、全体最適の視点から問題(ボトルネック)を探し出し、解決していこうというものです。イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラット氏が1970年代後半に考察した方法論で、現在でも生産現場や企業全体の改革手法として使われています。日本では2001年にゴールドラット氏が著した「ザ・ゴール」が出版され、TOCを学ぼうという機運が高まりました。

◆効果
SCMの理論的な基礎に

 例えば、年々増加傾向にある売上高物流費比率(人件費を含む)を抑制しようと、倉庫の自動化を進めたとします。確かに倉庫自体の効率は一時的に向上しますが、近い将来に限界が来てしまうかもしれません。なぜ倉庫に保管すべきものが増えるのかといった根本原因を考え、場合によっては生産方法や需要予測方法の見直しなどが必要になるでしょう。TOCは、SCM(サプライチェーン・マネジメント)の理論的な基礎になったともいわれています。

 TOCにはいくつかの手法があります。生産管理手法として使われる「ドラム・バッファー・ロープ」や、製品や情報システムなどの開発過程で適用できる「クリティカルチェーン」などです。最近では、プロジェクト・マネジメントでTOCの手法が使われることも増えているようです。

◆事例
時間外労働減らし増産

 自動車用プレス部品製造の住野工業(広島市)は、TOCを生産管理に適用しています。その結果、増産に対応しつつ、時間外労働を減らすことができました。同社が採用したのは、生産工程全体における制約工程(ボトルネック)を探し出し、そこを基点に管理するドラム・バッファー・ロープです。制約工程の上流工程では、制約工程の直前に置く「バッファー(仕掛かり在庫置き場)」の状況を見て生産ペースを調整します。工場全体の流れを考慮して、全体最適を図るものです。

(長谷川 直樹)