訂正:アングル:豪ドルに調整リスク、「オランダ病」が顕在化

Photo illustration shows Australian one dollar coins surrounding a U.S. one dollar note in Sydney
5月16日、オーストラリアドルに調整リスクが浮上している。天然資源の輸出に依存することで、自国の通貨高や賃金上昇を招き、国内製造業が衰退していく「オランダ病」の症状が顕在化しつつあるためだ。シドニーで2011年7月撮影(2014年 ロイター/Tim Wimborne)
[東京 16日 ロイター] - オーストラリアドルに調整リスクが浮上している。天然資源の輸出に依存することで、自国の通貨高や賃金上昇を招き、国内製造業が衰退していく「オランダ病」の症状が顕在化しつつあるためだ。オーストラリア準備銀行(RBA)の利下げ観測は後退。豪ドルは上昇基調にあるが、中国経済の減速などを契機とした調整を警戒する声もある。  
<総撤退する自動車産業>
「オランダ病」は、1970年代、エネルギー価格の高騰を背景に天然ガスの輸出を拡大したオランダが患った病だ。外貨収入の急増に伴って自国通貨のギルダーが高騰。労働者の賃金上昇も加わり、資源以外の輸出品の国際競争力が急速に低下した。オランダの経済成長率は81年がマイナス0.51%、82年がマイナス1.28%となった。
同じ症状が、最近のオーストラリアで見られる。労働者賃金の高止まりだ。ジェトロがアジア・オセアニアの主要都市を対象に行った調査によると、シドニーのワーカー(一般工職)の基本給は月額4615米ドルで、横浜市の3306米ドル、大阪市の3126米ドルよりも高い(13年1月7日のインターバンクレート、1米ドル=88.08円換算)。  
実際、代表的な製造業である自動車産業は、同国から消滅することが決定的となっている。同国に組み立て工場を持つ大手3社のうち、米フォード・モーターは16年10月に工場を閉鎖する方針で、米ゼネラル・モーターズ(GM)、トヨタ自動車<7203.T>も17年末までに同国での生産を中止する。
国内大手自動車メーカーの関係者は「自動車工場の従業員の平均年収は7万7000ドル(約730万円)。稼働日が少なく、有給休暇が多いことを考えると、かなり単価は高い」と指摘する。GMのアカーソン会長兼最高経営責任者(CEO、当時)は、撤退の要因を「持続的な豪ドル高、高い生産コスト、小さい国内市場」とし、同国における自動車産業の「三重苦」を嘆いた。
みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、コストに敏感な自動車メーカーが脱出し始めているということは、オーストラリア経済衰退の前兆だとし、豪ドルの先行きを警戒する。「12年後半から賃金の伸びは抑えられてきたが、いまだ生産性に見合わない高コスト構造が温存されているようだ」と指摘。この構造は、将来的に同国の稼ぎ頭である資源ビジネスの競争力にも影響を与えかねないとみている。
<高値圏の豪ドル、中国が懸念要因>
一方、為替市場で豪ドルの人気は高まっている。米国や日本など主要通貨国で実質的なゼロ金利政策が続くなか、金利が相対的に高い豪ドルは買われやすい地合いが続いているためだ。2月安値からの比較では豪ドル/円は約8%上昇している。
だが、いずれ調整する局面がくるとの見方も徐々に出てきている。賃金上昇による高コスト構造を嫌い、自動車産業などの外資系企業が撤退していることに加え、交易関係が深い中国の経済減速も懸念要因だ。
鉄鉱石や石炭の産出国であるオーストラリアは、中国をはじめとする新興国の資源需要の拡大と価格上昇で大いに潤ったが、資源ブームも終息。オーストラリア政府が13日発表した14/15年度の成長率見通しは、前年度の2.75%から2.5%に減速すると予想されている。  
上田ハーロー外貨保証金事業部長、山内俊哉氏は「オーストラリアの不動産市場は堅調というが、中国人が買っているという話も多い。中国国内では不動産価格の下落もあるので、そういった資金がオーストラリアに入ってこなくなると、もう一回利下げ(訂正)の方向に動く可能性もある」と指摘。今年の年末にかけては「85─86円まで下落するかもしれない」とみている。  
前出のみずほ銀の唐鎌氏は、今後、目立って物価が低めに誘導されていかない限り、豪ドルはいずれ名目為替レートの面から調整を迫られる可能性があると指摘。中国の成長鈍化などが引き金となり、向こう1年で90円割れを試す展開も想定されるとしている。
*16日配信した記事の本文10段落目の「利上げ」を「利下げ」に訂正します。

杉山健太郎 編集:伊賀大記

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