阪神優勝でも阪急百貨店がセールをやらないのはなぜ 「2つの商売」カギ

阪神のリーグ優勝を記念するセールは多くの買い物客でにぎわった=9月15日、大阪市北区の阪神梅田本店(甘利慈撮影)
阪神のリーグ優勝を記念するセールは多くの買い物客でにぎわった=9月15日、大阪市北区の阪神梅田本店(甘利慈撮影)

プロ野球日本シリーズで阪神とオリックスによる59年ぶりの関西球団同士の頂上決戦が熱気を帯びている。経済活動にも影響を与え、チームゆかりの百貨店やスーパーがセールを準備。エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングは、阪神が38年ぶりの日本一を達成した場合、傘下の阪神百貨店やスーパーで感謝セールを予定する。一方で、傘下の阪急百貨店ではセールを行わない方針だ。同じ企業なのになぜ阪急は阪神セールを開かないのだろうか。

「阪急でもセールをやったらいいのに」

阪神のリーグ優勝後、こうした声がH2O経営陣にも届くというが、荒木直也社長は2日の中間決算会見で「同じ会社だからと、阪急で便乗してやろうというスタンスは取らない」と一蹴した。

9月、阪神が18年ぶりにセ・リーグ優勝したのを記念して阪神梅田本店(大阪市北区)は7日間のセールを実施。「虎ファン」でにぎわい、昨年4月のリニューアルオープン以降、過去最高の週間売り上げを記録した。一方、おしゃれな洋服や高級ブランド品が目を引く阪急うめだ本店(同)は対照的に、ふだん通りの営業を続けていた。

荒木社長は「同じ会社でも屋号は2つで、(違う顧客層に向けて)2つの商売をやっている。阪神タイガースの優勝のときは阪神ファンに阪神百貨店で楽しんでいただく。ブランドを大切にしたい」と話す。

一つの会社が2つ屋号の百貨店を抱える全国的に珍しい経営体制は「阪急」と「阪神」という関西を代表する対照的なブランドがたどった数奇な運命から生まれた。

平成17年9月、「もの言う株主」として知られた村上世彰氏率いるファンドが阪神電気鉄道の株式保有を明らかにしたのをきっかけに、翌年10月、阪神電鉄と阪急電鉄を傘下に置く阪急阪神ホールディングス(HD)が誕生。百貨店同士も19年10月、設立されたH2Oの傘下に入る形で経営統合された。

当初は「阪神が阪急に飲み込まれる」との見方もあったが、阪急阪神HDとH2Oの経営陣は「阪急」「阪神」のブランドを残すことにした。阪急沿線と阪神沿線の住民はそれぞれ独自の顧客層を形成しており、「ブランドを無理に一緒にすれば顧客が離れる」と恐れたからだ。

阪急百貨店もこれまで、優勝セールをしてこなかったわけではない。オリックス・バファローズの前身となる阪急ブレーブスが初優勝した昭和42年、阪急百貨店は優勝記念セールを実施、H2Oの広報担当者は「百貨店として優勝セールをした初めての例です」と自負している。

平成19年に統合し、ともにH2O傘下となった阪神百貨店と阪急百貨店。ただ、統合後もカラーの違いは鮮明で、近畿大経営学部の大内秀二郎教授(流通)は「阪神でのみセールを行うのは、意図的かつ戦略的なブランディング活動だろう」と指摘する。

阪急百貨店は、うめだ本店のイベントスペース「祝祭広場」などが象徴的で、百貨店がハレの場を演出する特別な場所であることを印象付けているとみる。

一方、昨年4月にリニューアルオープンした阪神梅田本店のコンセプトは「毎日が幸せになる百貨店」。日常生活で利用されることを想定しているとし、「関西の人々にとって野球は身近で日常的なもの。それを応援するということが阪神百貨店のブランディングなのだろう」と話す。

また、阪急百貨店でセールを実施したとしても、「セール期間中の短期的な来店客数は増えるかもしれないが、(セールに関係ない)ほかの売り場での効果の波及は限定的ではないか」との見方を示している。(牛島要平、清水更沙)

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