大規模な太陽嵐で電力停止の危険性

2011.08.02
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太陽嵐によって地球の磁気圏に電流が生成されると、変圧器が故障する危険性がある。

Photograph by TJK/Alamy
 1億5000万キロかなたの太陽で生まれた嵐で、地球上の通信機器やGPSが破壊される場合がある。さらに、数週間から数カ月にわたり一部地域で電力の供給が途絶える可能性も否定できないという。 太陽風の荷電粒子の爆発的な放出を「太陽嵐」と呼ぶ。条件が揃えば、太陽嵐によって磁気圏内(磁場に支配されている地球周辺の領域)に強い電流が生成される。電力網は特にこの電流の影響を受けやすい。高圧送電線に混入すると、変圧器がオーバーヒートを起こして故障する場合があるのだ。

 アメリカの電力中央研究所(EPRI)で電力供給・利用部門の上級技術管理者を務めるリッチ・ローダン氏は、「1度の嵐でも多くの変圧器が故障すれば、交換作業は困難になり時間もかかる。われわれが心配している点だ」と指摘する。「変圧器は巨大な設備なので、近隣に予備が保管されているとしても、交換作業まで2カ月かかる可能性がある。製造業者に新規注文する場合は、半年から2年必要だろう」。

 太陽活動が11年周期でピークに達する極大期が近づくにつれ、事態はさらに深刻となる。次回の2013年前後には、強力な太陽嵐の発生する恐れがある。

 最新の太陽観測衛星とコンピューターモデルを用いて太陽嵐の予測精度を高める研究が進む一方、太陽嵐の警報にどう対応するか計画し、最悪のケースに備えて電力網の被害予測も作られている。

「磁気嵐の発生率は低いが、影響は甚大だ」とローダン氏は話す。「対策を実行する必要がある磁気嵐の規模はどの程度なのか? データや、そこから合理的に導き出されるシナリオを基に考えると、送電網は太陽嵐が発生しても機能すると私は考えている」。

◆予測精度の向上

 あらゆる自然災害と同様、太陽嵐に対する的確な対応は、監視と予測の精度に左右される。つまり、現実世界の物理学を土台とすることが必要だ。

 しかし、太陽嵐の予測は台風とは比較にならないほど難しい。「宇宙天気の対象となる範囲は極めて広大だからだ」と、米国海洋大気庁(NOAA)宇宙天気予報センターの宇宙科学者ジョー・クンチズ(Joe Kunches)氏は説明する。「太陽がバスケットボールのサイズだとすると地球はピンの頭程度。しかも、2つの距離はコートの両端ほど離れている」。

 また、来るべき太陽嵐が地磁気誘導電流(GIC)を生成するタイプかどうかを判断するには、まだ情報が不十分だ。誘導電流が送電線に流れると、交流電流が乱れて電力設備が破壊、停電に至る大被害が発生する。

「太陽嵐の中で電力網への影響が大きいコロナ質量放出(CME)の強さは、プラズマ内で発生した磁場の極性と関係する。発生期間や強さなど、太陽嵐の性質は極性によって決まる。太陽嵐が強力であればあるほど、地磁気誘導電流の可能性も高くなる。しかし、嵐が地球のすぐ近くに到達するまで、情報を得ることはできない」。

◆宇宙天気予報の新時代

 カギを握るのは、最近打ち上げられた人工衛星だ。例えばNASAのソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー(SDO)は、24時間体制で太陽を詳細に観測し、10分の1秒ごとに複数の波長で撮影している。

 NASAゴダード宇宙飛行センターの太陽専門家アンティ・プルキネン(Antti Pulkkinen)氏は、「SDOの目標の1つは、太陽の爆発の性質を物理学的に解明するヒントを見つけ出すことだ。SDOチームは爆発が起こる時期を予知することはできないが、観測データは予測の手掛かりになっている」と説明する。

「非常に面白い時代を迎えていると思う。人工衛星でリアルタイム観測し、1~2日単位の予測が可能になった。コンピューターの処理能力向上で本格的なモデルも実行できる。宇宙の天気予報なんて一昔前は夢物語だった」。

Photograph by TJK/Alamy

文=Victoria Jaggard

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