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日銀総裁発言 「民の竈」が見えぬのか

2022年6月8日 05時05分 (6月8日 05時05分更新)
 黒田東彦総裁が六日の講演会で「家計の値上げ許容度も高まっている」と述べた。信じ難い発言である。賃金が上がらない中、物価上昇は家計に打撃を与えている。黒田氏には、苦しい「民の竈(かまど)」が見えていないのではないか。
 黒田氏は「家計が値上げを受け入れている間に良好な経済環境を維持し、賃金の本格上昇につなげていけるかがポイント」とも述べた。賃上げの実現に力点があるとしても、物価上昇を許容しているというのは勝手な解釈だ。
 家計が値上げを許容できるのは賃金上昇が物価上昇を上回る場合に限られる。しかし、厚生労働省が七日に公表した四月の毎月勤労統計によると、前年同月比の実質賃金は四カ月ぶりに減少した。
 ウクライナ侵攻が資源高騰に拍車をかけ、円安もあって生活関連の物価は軒並み上昇。多くの家庭が食費や光熱費などを切り詰め、耐え忍んでいるのが実態だ。
 黒田氏は先週、国会で「買い物は家内に任せている」とも述べている。苦しい家計の実態を顧みない発言は無神経に過ぎる。
 新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出制限などで消費は減り、貯蓄額が伸びた。日銀によると、その額は約二十兆円という。
 ただ、貯蓄の伸びは、将来に対する不安が増大したからにほかならない。貯蓄額の増加が安心感を生み、家計の値上げ許容につながっているというのは現実から懸け離れた、誤った分析だ。
 日銀は約一万社の企業から業況を聞き取る企業短期経済観測調査(短観)をはじめ、さまざまな調査を実施し、景気の実態を把握して金融政策を行っている。ただ、経済統計の結果が国民の生活実感と乖離(かいり)することはあり得る。黒田氏はその可能性をまったく念頭に置いていないのだろう。
 黒田氏は七日の参院財政金融委員会で、自らの値上げ許容発言について「強調しすぎたかもしれない」と釈明したが、撤回したわけではない=写真。
 黒田氏はまず小売店に自ら出向いて人々の話を直接聞くべきだ。その上で、自らの発言が的を射ていたか、深く考えてほしい。

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