アフガン・タリバン復権から1年 治安改善も経済は疲弊 その現状は…

2022年8月12日 06時00分
 アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが実権を握ってから15日で1年となる。現地では治安が大幅に改善した一方、国際社会の制裁や各国からの支援停止によって経済は疲弊し、食料難が深刻化している。アフガニスタンで長く支援活動を続ける認定NPO法人「難民を助ける会(AAR Japan)」(東京)は、国際社会の継続的な支援を呼びかけている。(藤川大樹)
 AARは1999年以降、20年以上にわたり、地雷や不発弾の被害を避けるための教育や、障がい者支援を行ってきた。タリバン暫定政権が発足した昨年以降も、タリバンの行政関係者と協議しながら食料配布などを続けている。
 AARカブール事務所のバシール・バセルさん(41)によると、現地では、過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力「ISホラサン州」によるテロは起きているものの、タリバンと旧政府軍の戦闘が終結して治安状況は改善した。カブールでは女性が一人で外出できる機会も増えている。
 タリバン暫定政権は女性の教育や表現の自由などを制限しているとして国際社会から批判を浴びている。しかしAARによると、旧タリバン政権(1996〜2001年)ほどには厳格ではないという。

◆経済制裁で人々は困窮

 一方、国際社会はタリバンに対して制裁を科しており、米国はアフガニスタン中央銀行の資産のうち70億ドル(約9000億円)を凍結した。国際通貨基金(IMF)なども支援を停止したことからアフガニスタン経済は悪化しており、深刻な人道危機に直面している。

アフガニスタン東部パクティカ州で7月23日、配布された食料をロバに積み込む男性=AAR提供

 国連開発計画(UNDP)は昨年8月15日以降、70万人以上が職を失ったと推計。AARがカブール事務所のスタッフを募集したところ、一つのポストに400人以上が応募した。
 バセルさんは「アフガニスタンは今、食料をはじめあらゆる必要物資を支援に頼っているが、支援は一時的で持続的ではない。人々に仕事の機会を与えてほしい」と訴える。

◆災害が追い打ちに

 さらにアフガニスタン東部で6月22日に起きたマグニチュード(M)5.9の地震が事態を悪化させている。1000人以上が亡くなり、約4500棟の家屋が被害を受けた。

アフガニスタン東部パクティカ州で7月2日、地震で壊れた家を訪問するカブール事務所の職員(左から2人目)=AAR提供

 AARは7月下旬、パクティカ州で被災した300世帯に米や小麦粉、せっけんなどの衛生用品を配布した。被災者からは感謝とともに「もっと支援を」との声が寄せられたといい、厳しい冬を控えて、さらに支援を計画している。
 2002年にカブール事務所を立ち上げ、今も支援活動を続けるプログラム・コーディネーターの紺野誠二さん(50)は「アフガニスタンは(支援の)ニーズがすぐになくなる国ではない。日本や欧米諸国は人権問題を理由にタリバンに厳しい態度を取っているが、災害や人道支援の分野では、しっかり援助していくべきだ」と主張する。

 米軍のアフガン撤退とタリバン暫定政権 バイデン米大統領は2021年4月、米中枢同時テロから20年となる9月11日までに、アフガン駐留米軍を完全撤退させると発表。米軍の撤退が始まると、1996〜2001年まで政権を握っていたイスラム主義組織タリバンが支配地域を急拡大させ、8月15日に首都カブールを制圧した。タリバン暫定政権はイスラム法に基づく統治を目指すが、女性の権利を抑圧しているとして国際社会は承認していない。

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