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南北はつながらず 越前と美濃を結ぶ幻の国鉄「越美線」

終着駅の九頭竜湖駅に到着した越美北線の列車
終着駅の九頭竜湖駅に到着した越美北線の列車

JR西日本が4月11日、輸送密度が2千人未満と利用者が少ない17路線30区間の収支を発表した。営業損益は平成29~令和元年度平均ですべて赤字。その中の一つに福井県内を走る越美北線(えつみほくせん)が含まれていた。収支率(費用に対する収入の割合)は7・3%、赤字は8億4千万円。線区営業係数(100円の収入を得るためにかかる費用)の1366円は、30区間では9番目に厳しい数字だった。

同線の列車は北陸線の福井駅を出発。越前花堂(はなんどう)駅から分岐し、中間駅に戦国大名、朝倉氏の城下町があった「一乗谷朝倉氏遺跡」に近い一乗谷駅を持つ。川沿いの景色を見ながら、終点の九頭竜湖(くずりゅうこ)駅まで52・5キロのローカル線の旅が楽しめる。

越美北線が九頭竜湖駅まで開業したのは昭和47年12月。当時の時刻表の索引地図を開いて見ると、越美南線という路線がある。南線の終点、北濃(ほくのう)駅と九頭竜湖駅はつながっていないが、索引地図はやがて接続するかのような表示だ。実は岐阜県の美濃太田駅を起点とする南線と北線は「越前」と「美濃」を結ぶ「越美線」という一本の路線になる計画だった。しかし、国鉄の赤字が膨らんだこともあり、つながることはなかった。そして、南線はJR発足前の昭和61年12月、第三セクターの長良川鉄道として生まれ変わった。

 越美北線の終着駅、九頭竜湖駅に停車する列車。左奥へ線路が延びる計画があった
越美北線の終着駅、九頭竜湖駅に停車する列車。左奥へ線路が延びる計画があった

当時の時刻表の地図には、ほかにもつながりそうに見える路線がある。山陰線の江津-浜原間の「三江北線」、芸備線の三次-口羽間の「三江南線」は50年8月にめでたく全通したが、平成30年4月に全線廃止となった。

北海道には浜頓別-北見枝幸間の「興浜北線」、興部(おこっぺ)-雄武(おむ)間の「興浜南線」が掲載されているが、「興浜線」とはならず、赤字ローカル線として両線とも廃止された。南北に分断された当時の「未成線」には厳しい未来が待っていた。

現在は長良川鉄道の終点になっている北濃駅
現在は長良川鉄道の終点になっている北濃駅

現在、中部縦貫自動車道「大野油坂道路」が建設中だ。令和8年春に全通予定で、区間は福井県大野市の大野IC-油坂出入口(35キロ)間。すでに開通済みの「油坂峠道路」と合わせれば、福井市から九頭竜湖付近、岐阜県郡上(ぐじょう)市を経由して美濃加茂市まで高規格道路で移動できる。越美北線の運行区間がすべてカバーされるだけでなく、一部を除き、これは「越美線」の「福井-美濃太田」のルートと重なる。

鉄路は幻に終わった区間を高速道路が結ぶ。全国各地のローカル線の衰退の理由を見ているようだ。(鮫島敬三)

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