弊社海外文庫の中心的作家として長く読者の皆様に愛されてきたジャック・ケッチャムさんが、2018年1月24日ご逝去されました。享年71。長いがんとの闘病の末、亡くなられたとのことです。

心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

代表作としてはやはり、実際にあった少女監禁事件に題材をとった傑作『隣の家の少女』と、食人族をモチーフにして当初発禁に近い扱いを受けたデビュー作『オフシーズン』の二作を上げるべきでしょう(後者の文庫は残念ながら品切れです。電子版をどうぞ......)。
とくに『隣の家の少女』は、弊社書籍としては異例の頻度で版を重ねてきた、弊社文庫の「顔」ともいえる作品であり、現時点ですでに41刷を数えております。
くわえて編集者自身は、『老人と犬』と中編集『閉店時間』(とくにそれに収録されているウェスタン「川を渡って」)をみなさんにぜひ強力にお薦めしたいところです。(以下、敬称略)

隣りの家の少女 表紙画像ミニ.jpg

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ケッチャムは、一般にはジャンル・ホラーの作家と認識されているかもしれません。
たしかに、ケッチャムの小説は、残虐で、無慈悲で、血みどろの描写にあふれています。
しかし、ケッチャム・ファンの多くは、単なる恐怖、単なる残虐性、単なるイヤミスの枠を超えたところで、彼の露悪的ではあっても繊細な、「暴力への感受性」それ自体に惹きつけられているのではないでしょうか。少なくとも編集者はそうです。

 

ケッチャムの提示する"つくりもの"ではない「悪」の実存と、天災のごとく降りかかる理不尽な加害のリアリズム(およびその逆説としての世界の平等性)、心の痛みすら伴う体感的な恐怖は、おそらく文学史上、唯一無二のものです。

 

同時に、その裏からほとばしる、立ち向かうことへの肯定的意思、被害者も加害者も報われない神なき世界でなお生きるひとびとの矜持は、意外にもみなさんの胸を打つかもしれません。

 

そして、そんな真摯で謹直ですらある作家性......ほんとうの痛みを知る繊細でたおやかな世界認識(そうじゃないと、9.11のあと小説が書けなくなったりはしない)を、なにかとジャンル・ホラー愛好とエキセントリックな過剰性でつつまずにはいられない、この人物の「含羞」と、出自を裏切らない誠実さを、編集者はこころから愛します。

 

改めて、この不世出の作家の早すぎる死に対し、衷心よりお悔やみ申し上げるとともに、ひとりでも多くの方にケッチャムの諸作を読んでいただけることを願ってやみません。(編集Y)

 

 

付録その1
★ケッチャム中・長編リスト

急遽、今作ってみたので若干誤植とかあるかもしれませんが、お許し下さい。
(発表順、邦題のあるものはすべて扶桑社ミステリー刊)

『オフシーズン』(Off Season, 1981年)
『Hide and Seek』(1984年)
『森の惨劇』(Cover, 1987年)
『She Wakes』(1989年)
『隣の家の少女』(The Girl Next Door, 1989年)
『襲撃者の夜』(Offspring, 1991年)
『ロード・キル』(Joyride,  英Road Kill,1994年)
『オンリー・チャイルド』(Stranglehold, 英Only Child,1995年)
『老人と犬』(Red, 1995年)
『Lady's Night』(1997年)
『地下室の箱』(Right to Life, 1998年)
『黒い夏』(The Lost, 2001年)
『ザ・ウーマン』(The Woman, 2010年)(ラッキー・マッキーと共作)
『わたしはサムじゃない』(I'm Not Sam, 2012年)(ラッキー・マッキーと共作)
『The Secret Lives of Souls』(2016年)(ラッキー・マッキーと共作)
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『The Box』(1994年,中編)
『Station Two』(2001年,中編)
『狙われた女』(Triage, 1990年)―競作集 「シープメドウ・ストーリー」(Sheep Meadow Story,中編)収録
『閉店時間』―中編集 「閉店時間」(Closing Time,2007年)「ヒッチハイク」(The Passenger,2001年)「雑草」(Weed Species,2006年)「川を渡って」(The Crossings,2003年)収録
『Old Flames』(2008年,中編)
(その他、短編多数)

 


付録その2
★翻訳者によるケッチャム入門

ずっと、弊社でケッチャム作品を翻訳してくださっている金子浩さんによるケッチャム紹介です。
下記のリンクからどうぞ。

翻訳ミステリー大賞シンジケート 初心者のためのジャック・ケッチャム

 


付録その3
★ケッチャムの選んだオールタイム・ベスト

文春さんの依頼で弊社からケッチャムさんにお願いしたら、速攻でお返事がいただけたのでした。本当に良い方だったんですよ......(泣)。ケッチャムという作家の核心を成すものが、むしろホラーではなく「ノワール」であることを明示する興味深いリストではないかと思い、再掲します。

●『長いお別れ』(レイモンド・チャンドラー)

●『羊たちの沈黙』(トマス・ハリス)

●『ゲット・ショーティ』(エルモア・レナード)

●『ミレニアム2 火と戯れる女』(スティーグ・ラーソン)

●『TALK TALK』(T.コラゲッサン・ボイル)

●『夜の終り』(ジョン・D・マクドナルド)

●『THIEVES LIKE US 』(Edward Anderson)

●『血と暴力の国』(コーマック・マッカーシー)

●『ブラック・ダリア』(ジェイムズ・エルロイ)

●『おれの中の殺し屋』(ジム・トンプスン)

 


付録その4
★ケッチャム鬼畜営業日記

おそらく日本一ケッチャムを愛する弊社営業の女性販売員による、
ケッチャム『ザ・ウーマン』販促大作戦のブラッディー・ドキュメント!

翻訳ミステリー大賞シンジケート ケッチャム鬼畜営業日記

 

文中に登場する「書店時代のエピソード」は下記の座談会でお読みいただけます。

扶桑社ミステリー&ロマンス入門ガイド 第3回

 

 

2018年1月25日 15:45

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