2011年7月26日の午後、東京都内の地下鉄の改札階から地上階に向かったエレベータが出発後ほどなくして突如落下。その直後に非常停止装置が働いて緊急停止した。エレベータのかごをつっている3本のロープ(主索)が一度に破断したのだ。当時、エレベータ内には乗客が1人いたが、幸い、大事故には至らず、左肘と左臀でん部の打撲という軽傷で済んだ。

 事故が起こったのは、2004年2月に設置された東京地下鉄平和台駅のエレベータ。製造は三菱電機で、定格積載量は750kg、定員は11人(図1)。乗り場は、改札階(地下階)と路面に面した地上出口の2カ所しかなく、高さにして約7.56mの短い距離を頻繁に往復していた。機械室のない省スペースタイプで、巻き上げ機は地下に設置されている。

 事故の通報を受けて保守会社〔三菱ビルテクノサービス(本社東京)〕が調べたところ、それぞれ全長が約47mある主索3本が全て破断して、非常停止装置が働いた状態だった。制御盤に記録された運行データのログによると、改札階を出発してから7.4秒後に過速スイッチ(加速度が一定の大きさを超えると機能する)が作動。これにより非常停止装置が起動した。モータの回転量から算出される上昇距離(4.2m)と実際の停止位置(3.05m)、破断時のモータの空転を考慮すると、0.5~1mほど落下したと推定された(図2)。

 人的被害こそ軽微だったが、「主索3本が全て1度に破断するというのは、近年にはない重大な事故」(明治大学教授で昇降機等事故調査部会部会長の向殿政男氏)だった。

〔以下,日経ものづくり2012年4月号に掲載〕

図1●ロープ破断事故があった東京地下鉄平和台駅のエレベータ
図1●ロープ破断事故があった東京地下鉄平和台駅のエレベータ
改札階(地下階)と地上階の2つのフロアを往復しており、平均で1日1800回の利用があった。
図2●事故機の構造と非常停止時の位置
図2●事故機の構造と非常停止時の位置
改札階から地上階に向かう途中で事故が発生。0.5~1mほど落下して図のような位置で停止した。