全6112文字

ウクライナ戦争では、ドローン(無人航空機)が「戦場のゲームチェンジャー」として大きな戦果を上げている。使われているのは、軍用の固定翼型ドローンだけではない。安価な民生用のマルチコプターも相手の脅威となっている。ドローンは防衛の観点からは、これまでの防空システムには引っかからない厄介な存在だ。専用の対策が求められている。

 「ドローンはコストが安い割に高い効果を得られる。しかも、誘導弾など高コストの武器で対処すると、安い兵器を使って負荷をかけることを狙っている相手の思うつぼにはまってしまう」。防衛省 防衛装備庁技術戦略部技術戦略課課長補佐の加藤智史は、ドローンの厄介さをこう表現する。

 さらに今後は、多数のドローンの飛行を制御して目標に向かわせる「スウォーム攻撃」が大きな脅威になるとみられている。

 こうした攻撃に備え、低いコストでドローン攻撃に対処できると注目されているのが、高出力レーザーでドローンを撃墜するシステムである。「1発当たり数十~数百円レベルの電気代で済む。性能によるが数秒から数十秒に1発は撃てる」(加藤氏)。そして、電源供給が続く限り“弾切れ”の心配がないのが長所だ(図1)。

図1 対ドローン用の高出力レーザー撃墜システムのイメージ
図1 対ドローン用の高出力レーザー撃墜システムのイメージ
防衛装備庁は2023年から、出力100kWのレーザーシステムの実証を開始している(出所:防衛装備庁のYouTube公式チャンネルの動画からキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 レーザーは、撃墜する対象や射程距離によって出力が異なる。川崎重工業は出力が100kWと高いレーザー装置をトレーラータイプの車両に搭載したシステムを、2023年に防衛装備庁に納入。同庁が野外で実験を開始した。このシステムの射程距離は2kmで、マルチコプター型の小型ドローンのみならず、固定翼タイプのドローンやロケット弾の撃墜にも使えるという。

 ただし、「現在は技術を磨いている段階で、現場への配備や運用についてはまだ何も言えない」(加藤氏)としている。ちなみに、防衛装備庁は出力が数十kWクラスのレーザーシステムの研究も進めている。世界では既に米国やイスラエルが一部の現場に配備しており、レーザー撃墜システムが実戦で使われるのもそう遠い将来ではなさそうだ。