VAIO(長野県安曇野市)が2021年2月に発売したノートパソコンのフラッグシップモデル「VAIO Z」。その特徴の1つが、外装部品における立体成形の炭素繊維強化樹脂(CFRP)の採用だ。CFRPにかける思い、VAIO Z製品化での苦労について、VAIO Zのメカ設計を担当した浅輪 勉氏と製造技術を担当した清水慎也氏に聞いた。(聞き手は中山 力)
VAIO Zでは立体成形したCFRPの採用を大きな特徴として前面に出しています。
浅輪氏:実は、ノートパソコンの外装(ボディー)にCRRPを採用したのは20年近く前に遡ります。2003年12月に発売した「バイオノート505エクストリーム」の通販限定モデル(「PCG-X505/SP」)で天板(ディスプレーの裏面)とボトム(底面)に採用したのが最初です。その後、CFRPを本格的に使おうと、05年に発売した2代目の「VAIO type T」で量産モデルでも採用しました。
今回のVAIO Zではボトム、天板、パームレストの3部品をCFRP製としていますが、最も大きな違いは各部品の形状です。「立体成形」と表現しているように、単純な平面の板ではなく、立体的な断面形状に成形しています。従来も端部が少し湾曲するなどの3次元的な形状はありましたが、その程度を大きく高めたのです。
VAIOではなぜ、CFRPに力を入れているのでしょう。
浅輪氏:ノートパソコンのボディーで採用される軽量化材料としては、アルミニウム合金やマグネシウムリチウム(Mg-Li)合金などの金属材料も注目を集めています。VAIOでもさまざまな金属材料を採用してきました。
しかし、金属材料に限界を感じていたというのが正直なところです。その最大の理由が、物性の等方性/均一性です。金属でもこれらを調整するのは不可能ではないかもしれませんが、CFRPでは繊維の配向や密度を調整できる余地が大きい。強度のメリハリをつけることが可能になって、より軽量化や薄型化を実現できるのです。
VAIOでは連続した長い炭素繊維(以下、連続繊維)と熱硬化性樹脂を組み合わせたCFRPを採用しています。連続繊維が単一方向に並んだ、いわゆる「UD(Uni Directional)」のシートを基本に、その方向を変えて積層したり、炭素繊維を含まない樹脂層を挟んだりといった工夫で最適な物性となるようにしてきました。繊維のバリエーションも使い分けます。そうして進化させてきたCFRPの軽くて強いというメリットを最大化させようと取り組んだのが今回のVAIO Zなのです。
このように高いポテンシャルを持つCFRPですが、課題は生産性です。VAIOではCFRP製ボディーの部品を当初から熱プレスで成形しており、その工程も含め、材料メーカーである東レと共同で開発を進めてきました。熱プレスの基本技術は東レが持っていたからです。
難しい形状は職人の技能で実現
立体成形で挑戦した従来にない形状とはどのようなものでしょうか。
浅輪:従来も平板を少し湾曲させた経験はありましたが、今回のVAIO Zでは曲率半径の小さな曲げ形状や、熱プレスでの成形が難しい形状に挑戦しました。特に天板では、ヒンジ側の側面は袋状、天板と一体化したベゼル部はコの字形になっていて、熱プレスにおける金型の動きの死角(アンダー部)になります。このような形状は初めてでした。
こうしたアンダー部をどう実現するか。VAIOから「こういう形状にしたい」と提案し、どの程度の形状ならば成形できるかを試作型の熱プレスで検証しつつ、東レと相談しました。その結果、(炭素繊維に樹脂を染み込ませた)プリプレグの状態である程度形を整えてから熱プレスで硬化させる方式にしたのです。一部分を立体形状にしたプリプレグを熱プレスするわけです。
このプリプレグの事前成形、つまり長方形のプリプレグを切ったり曲げたりする作業は、基本的に職人さんによる手作業です。曲率半径が小さな、エッジが立っている部分などをきちんと曲げるのは、職人さんの技能に依存している部分も大きいです。生産性についても、治具などの工夫でVAIO Zの想定生産数を確保できるようにしています。
