昨夏にトヨタ自動車の完全子会社となったダイハツ工業は、トヨタから奥平総一郎氏を社長として迎えた。奥平氏はカローラなどの開発に携わってきた技術者で、直近は中国に駐在してアジア・オセアニア地域も担当してきた。トヨタグループにおいて、小型車で新興国を開拓する役割を担うダイハツ。報道各社のグループインタビューに応じた新社長に意気込みを聞いた。

<b>奥平総一郎(おくだいら・そういちろう)氏 </b></br>1956年生まれ。1979年に東京大学工学部を卒業し、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)に入社した。2013年、専務兼技術開発本部長。14年、トヨタ自動車研究開発センター(中国)社長。17年4月に顧問としてダイハツ工業に転籍し、6月から社長(写真:北山 宏一)
奥平総一郎(おくだいら・そういちろう)氏 
1956年生まれ。1979年に東京大学工学部を卒業し、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)に入社した。2013年、専務兼技術開発本部長。14年、トヨタ自動車研究開発センター(中国)社長。17年4月に顧問としてダイハツ工業に転籍し、6月から社長(写真:北山 宏一)

トヨタグループ内でのダイハツの役割をどのように捉えていますか。

奥平総一郎社長(以下、奥平):トヨタから認められているのは、軽自動車の技術に立脚した、ダイハツ工業の良品廉価の文化です。トヨタと一緒に設置した新興国小型車カンパニーの領域で果たせる役割は大きい。

「選択と集中」こそ強み

小型車の開発、生産効率でダイハツに一日の長があると認めるトヨタ幹部は多い。どんな違いがあるのでしょうか。

奥平:ダイハツは選択と集中がしっかりできています。市場を日本、インドネシア、マレーシアの軽・コンパクトに絞り、効率的なリソースの使い方を追及してきた。非常にコストに敏感な顧客の要求に真正面から応え、良い商品を出し続けた。品質改善を愚直に進め、コスト低減に繋がった。このやり方を踏襲しながら進化させていきます。

 (生産能力を維持したまま建屋の面積を従来工場の半分にした大分県中津市の)中津第2工場へ視察に行きました。ダイハツのSSC(シンプル・スリム・コンパクト)の心が体現されていました。軽に特化したラインで、大きなクルマもつくらなければいけない工場では直ぐに真似できない工夫がある。現場の社員もコンパクトに集まって、まとまりもよくなっている。品質チェックにより手戻りをなくして、低コスト化が実現できている。近隣の仕入れ先までSSCは影響を与えています。

中長期経営計画では、販売台数250万台を2025年の目標に掲げています。

奥平:今現在150万台超えたところで、目標までまだ距離があります。ただし、目標はダイハツ単体の販売・生産ではなく、トヨタなどへ供給するクルマも含みます。現在トヨタへの供給は日本とインドネシアに限られますが、新興国で供給地域を増やして頂くことを考えています。トヨタとすみ分けをきっちりするというよりは、これまでのトヨタとダイハツの投資、生産設備、販売ネットワークを活用しながら、ダイハツのかかわっていく部分を大きくしていく。

トヨタ時代にダイハツの「ブーン」の開発にもかかわっていました。ダイハツの弱みや課題はどう捉えていますか?

奥平:1つは先進技術への取り組み。電動化にも取り組んではいますが、商業ベースにはなっていません。もう1つは海外展開。3つの国に絞って展開してきたことは現在の強みにつながっているが、拡大戦略を採る上では課題でもある。展開地域を広げないと250万台は達成できません。

「インドでスズキと競合も」

ダイハツが早くから進出しているマレーシアでは、自動車大手、プロトン・ホールディングスが中国の浙江吉利控股集団に買収されました。マレーシアを含めたASEANの市場の変化をどう捉えていますか。

奥平:マレーシアはまだ大きな変化ではないと考えていますが、注意深く様子をみていく必要があります。インドネシアは昨年、好成績でした。マレーシアも市場はこれから戻ってくるでしょう。ASEAN(東南アジア諸国連合)全体で同様の傾向にあると思います。市場のポテンシャルはまだまだ大きい。一方で競合も厳しくなってくると思います。

市場規模の大きい中国やインドについてどう考えていますか。

奥平:新興国小型車コンパクトカンパニーの対応地域を新規進出の検討範囲として考えています。まずはASEAN。そしていずれは南米も含め検討する。中国は同カンパニーのカバー範囲ではなく、コンパクトが重要な市場でもない。今は対象として考えていません。私自身中国にいましたが、政策対応がとても大変。政策上、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)の生産も迫られる。ダイハツがこれをできるかというとちょっと難しい。

 一方、インドは同カンパニーのカバー範囲です。インドネシア、マレーシアの次に考えるべき進出先はインド、或いはタイです。

インドに進出するとすれば、トヨタと業務提携を結ぶスズキとの関係はどうなるのでしょうか。

奥平:私はとやかく言う立場ではありませんが、インドでトップシェアのスズキと戦うには、相当力を入れて原価低減に取り組まないといけない。トヨタと一緒にどのように参入できるのか考えたい。

軽の顧客も納得する電動化追及

電動化、自動運転の技術開発の負担がどの自動車メーカーにとっても重くなっています。トヨタとの負担分担をどのように考えていますか。

奥平:先進技術の中で、電動化について言えば、避けては通れない道だと思っています。電動システムの技術はトヨタが持っていますが、これを軽、コンパクトまで拡張するのは無理がある。充電インフラ不足、充電時間の長さ、バッテリーの劣化とコストと重量。技術的課題は一杯ある。一般ユーザーからみると、軽くて安くて走れる電動システムは、まだできていないと思います。

 ダイハツは軽、コンパクトでの電動化の適切解を出すために取り組んでいる最中。ダイハツにとってのキーワードは「みんなの先進技術」です。どんな顧客からみても費用対効果があると感じてもらえるまで、先進技術のコストを低減する。できたアイテムから採用していくことになります。

 自動運転はトヨタの技術者と開発に取り組みながら、使えるものは取り入れる。今もトヨタに技術者が勉強しに行っています。コネクテッドカー(つながるクルマ)の技術については、消費者、販売店、メーカーを繋いでいくという意味では、難しい技術でなくてもできることはあると思っています。

 足元の課題は、衝突回避支援システム「スマートアシスト」の改良などをコツコツとやっていくことです。

軽自動車の市場は縮小しています。

奥平:軽乗用車、軽商用車共ともに、日本の道の幅や暮らしのスタイルにちょうどいいサイズ。長い目で見ても重要なカテゴリーです。省資源・省エネ、軽いから道路も損耗しない。パーソナルモビリティー(1人乗り移動機器)に近い役割を担うと思います。市場縮小は避けられないでしょうが、軽とコンパクトは日本を支えるクルマと考えています。

スズキとダイハツという軽の両雄のクルマが、ホンダの「N-BOX」に販売台数で負け続けている。

奥平:ダイハツの軽に対する顧客のイメージは「親しみやすい」「便利」といったところ。一方、わくわくするような刺激に欠けているところがあります。こういった要素をどこまでこれからの商品に入れていけるかが勝負です。いつまでも負けているわけにはいかない。

章男社長から「トヨタと同じにはするな」

辞令の際、豊田章男社長からどのような言葉をかけられましたか?

奥平:社長から言われたのは「ダイハツに行って下さい。ダイハツらしさをしっかりと磨き上げてください。トヨタと同じような会社にするのではなく、ダイハツの個性を発揮してください」ということ。ダイハツのチームワークを強くして、強い集団にせよ、という意味も含まれていると思います。

今回会長になった三井正則・前社長との業務分担はどうなるのでしょうか?

奥平:三井会長はトヨタとの協業の方向付けを考えます。ダイハツブランドのリーダーでもあります。私の直近の課題は(トヨタが進める開発・設計手法をベースにした次世代の生産手法)「DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」の確立です。

今回社長に推された理由を自分ではどう考えていますか?

奥平:正直良くわかりません(苦笑)。新興国でのクルマづくりを担当してきたし、市場も見て回ってきた。ダイハツも新興国での戦い方を進化させないと、将来にわたって生き残っていけないので、自分自身は良いチャレンジの場をもらったと思っています。

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