手塚治虫の未発表原稿公開へ 漫画「ミッドナイト」原型
漫画家の手塚治虫(1989年死去)が86〜87年に連載した「ミッドナイト」の単行本未収録エピソードをまとめた作品集が6月に刊行され、同作の原型となった未発表作「ドライブラー」のカラー原稿など計6点の新資料が本書で初公開されることが4日分かった。晩年の試行錯誤の跡が見て取れる貴重な資料として注目されそうだ。
作品集は「ミッドナイト ロストエピソード」(立東舎)。手塚プロダクションによると、新資料は同社資料室の「ドライブラー」と書かれた袋に入っていた。その中の一部は数年前に公開されたが、未整理の状態だったカラー原稿や、鉛筆描きの「ミッドナイト」のネーム(下絵)、キャラクタースケッチなど計6点が現存していたという。
手塚は「週刊少年チャンピオン」の新連載としてSF漫画「ドライブラー」を準備中だった84年に急性肝炎で入院し、連載が延期に。復帰後に仕切り直した「ミッドナイト」では、キャラも設定も全く異なるサスペンスに変えており、手塚が晩年まで少年誌でのヒットを目指して意欲的に創作する過程がうかがえる。
「ドライブラー」のカラー原稿は、車の助手席に女性を乗せて運転する男性のコミカルな姿を活写。手塚プロ資料室の田中創さんは「出版を機に、長年人目に触れなかった原稿が読者に届いてうれしい」と語る。
「ミッドナイト」は、深夜に奇妙な客たちと出会うタクシー運転手が主人公。手塚作品の人気キャラであるブラック・ジャックも重要な役割で登場し、手塚が最後にブラック・ジャックを描いた作品としても知られる。
「ミッドナイト ロストエピソード」は、連載終了後の約35年にわたり単行本で読めなかった幻の11話分と、ブラック・ジャックが登場する最終回などを収録。週刊連載時の扉絵も全67話分を掲載する。6月16日発売。4950円。〔共同〕
漫画への情熱、晩年まで
漫画家・漫画評論家の飯田耕一郎さんの話 近年初公開された手塚作品の原稿は初期のものが多く、晩年の創作に関する新資料は貴重だ。「ドライブラー」の躍動感あるカラー原稿から、手塚先生が晩年まで新作を面白くしようとした相当な意欲と、漫画への情熱が感じられた。読み切り形式の「ミッドナイト」はひねりの利いた人情劇で、不思議な読後感がある名作。出版を機に、ぜひ多くの人に読んでほしい。〔共同〕