琵琶湖の東岸に位置する滋賀県近江八幡市で、「ムベ」と呼ばれる伝説の果実が栽培されているのをご存じだろうか。ニワトリの卵よりやや大きく、熟すと赤紫色になるこの実は、「食べると長生きする」という言い伝えから不老長寿(不死)の実といわれ、古代から昭和50年代まで皇室に献上されてきた。その後、献上はいったん途絶えたが、地元の宮司らが「地域の伝統を取り戻そう」と平成に入って復活させた。最近はメディアでも取り上げられ、ムベを求めて全国からやってくる人も後を絶たない。(和野康宏)
むべなるかな…天智天皇が“命名”
ムベは、アケビ科の一種で、別名「トキワアケビ」という。アケビが落葉樹なのに対し、ムベは常緑樹で、春になると白い花をつけ、秋には赤紫の実がなる。関東から西の地域に自生しているが、ムベという名の由来は近江八幡にある。
言い伝えによると、天智天皇(626~671年)が琵琶湖南部の蒲生野(かもうの)(現滋賀県東近江市一帯)へ狩りに出かけた際、奥島山(現近江八幡市北津田町)に立ち寄った。
そこで8人の息子をもつ元気な老夫婦に出会い、「お前たちはなぜ、このように元気なのか」と尋ねたところ、老夫婦は「この地で採れる無病長寿の果物を、毎年秋に食べているからです」と答え、果物を献上した。それを賞味した天皇が「むべなるかな(もっともだな)」と言ったことから、この果物が「ムベ」と呼ばれるようになったという。