社説

中国が台湾包囲し演習 威嚇は孤立化招くだけ

 中国は、台湾の民主進歩党(民進党)の頼清徳総統の就任演説に反発し、大規模な軍事演習を行った。

 中国は頼氏を「独立派」と批判するが、演説が不満なら言葉で反論すべきだ。軍事行動という非対称の報復は緊張をエスカレートさせ、地域を不安定化させる。国際社会は台湾有事への警戒感を一層強めざるを得ない。中国自身が結果的に孤立する道だ。

 中国は、頼氏が演説で「(中台は)互いに隷属しない」「(台湾は)主権独立国家だ」と述べたことについて、「独立派の正体を現した」と決め付けた。しかし「隷属しない」は蔡英文前総統時代から使っている用語であり、「主権独立国家」は、対中融和路線の野党、国民党の馬英九元総統さえも述べており、特別新しい表現ではない。

 頼氏は演説で統一も独立も求めない「現状維持」を約束し、中国が求める「一つの中国」原則が残る中華民国憲法を守ると明言した。確かに8年前、蔡氏が就任式で中国を「対岸」と呼んだような気遣いはなく、対立色は強かった。だが民進党には、過去に中国に配慮しても中国が呼応せず「裏切られた」との思いがある。民進党を拒否する中国自身が招いた結果でもあることに、中国は気付くべきだ。

 中国軍の演習は、内容を発表しない場合や目的を明示しないことも多いが、今回は「(演習は)台湾独立のたくらみへの懲罰」「外部勢力の干渉への厳重な警告」と明確で、演習映像も公開した。内外に軍事力を誇示する狙いは明らかだ。

 米国務省は地域の安定を損なうと批判し、「自制して行動する」よう求めた。林芳正官房長官が「台湾海峡の平和と安定は、わが国の安全保障や国際社会全体の安定にとって重要だ」と表明したのは当然だろう。

 中国は、普段、日本政府が中国軍への警戒感を示すと「中国脅威論をあおっている」と反論する。「台湾有事は日本有事」という、台湾と日本の安全保障を結び付ける表現にも反発する。だが今回の事態を見れば、中国軍の脅威は明白だ。

 中国の呉江浩駐日大使は、日本の国会議員が頼氏の就任式に参加したことを批判し、日本が中国の分裂に加担すれば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれる」と語った。台湾問題に日本が関与しないようくぎを刺したつもりだろうが、武力行使でどう喝するような物言いは乱暴過ぎる。日本人の対中感情の悪化に拍車をかけるだけだ。

 中国は台湾統一のために武力行使も辞さない構えだが、民衆が犠牲になる戦争はできれば避けたいのが本音だろう。演習からは中国軍が台湾の海上封鎖を現実的な選択肢として考えていることがうかがえる。台湾の経済をまひさせることができる上、敵地攻撃が伴わなければ、米軍など外国が介入しにくいからだ。

 ただ、中国が軍事で威嚇する姿勢を改めない限り、台湾と民主主義などの価値観を共有する関係国は、中国の武力行使を抑止するための仕組みづくりを強化する方向に動くだろう。日本は中国に自制を求める一方で、海上封鎖への対応の検討も急ぐ必要がある。

(2024/05/25付)
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