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【新薬】ベルイシグアト(ベリキューボ)
慢性心不全に対する初のsGC刺激薬が登場

2021/09/03
北村 正樹=医薬情報アドバイザー

 2021年8月12日、慢性心不全治療薬ベルイシグアト(商品名ベリキューボ錠2.5mg、同錠5mg、同錠10mg)が薬価収載された。本薬は6月23日に製造販売が承認されていた。適応は「慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)」であり、用法用量は「成人には1回2.5mgを1日1回食後経口投与から開始し、2週間間隔で1回投与量を5mgおよび10mgに段階的に増量。なお、血圧等患者の状態に応じて適宜減量」となっている。

 心不全は、何らかの心臓機能障害、すなわち心臓に器質的および、あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難、倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群と定義されている。また、慢性心不全は、心不全が長期間にわたって起こり、次第に進行している状態であり、生命予後に影響を及ぼす危険性が極めて高いとされている。多くの心不全患者では、左室機能障害が関与されていることが多く、臨床的には左室駆出率(LVEF)評価に基づいて治療方針が決定されている。

 従来から慢性心不全においては、β遮断薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などが標準治療として確立されていた。さらに、ここ数年でHCN(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性)チャネル遮断薬のイバブラジン塩酸塩(商品名コララン)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のサクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(エンレスト)、ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬のダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(フォシーガ)などが使用され、長期的な心不全の悪化を予防し、生命予後の改善に貢献してきた。

 心血管系の重要なシグナル伝達経路である一酸化窒素(NO)‐可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)‐環状グアノシン一リン酸(cGMP)経路において、慢性心不全では血管内皮細胞の機能不全などによりNO産生の低下、NO受容体であるsGCの機能不全が生じることで組織中のcGMP量が低下することが判明している。そして、cGMPは心筋収縮、血管緊張、心臓リモデリングなどの生理学的プロセスを調節するシグナル分子であるが、cGMPシグナルの低下は心筋および血管の機能不全の一因となり、さらなる心不全の悪化を引き起こすとされている。β遮断薬などの既存の慢性心不全治療においては、NO-sGC-cGMP経路に対する直接的な介入は行われておらず、標準治療を受けている心不全患者の残存リスクをさらに低減させるために、NO-sGC-cGMP経路を活性化し、cGMPを増加できる新規薬剤が必要とされていた。

 ベルイシグアトは、sGC刺激薬であり、NO-sGC-cGMP 経路を標的とする新たな作用機序を有する心不全治療薬である。sGCを直接刺激する作用と、内因性NOに対するsGCの感受性を高める作用の2つの機序によりNO-sGC-cGMP経路を活性化させ、cGMPの産生を促進する。これにより、血管が拡張し血圧を低下させることで慢性心不全の進行を抑制する。なお、sGC刺激薬としてはリオシグアト(アデムパス)が肺動脈性肺高血圧症などの適応で既に臨床使用されている。

 既存の標準治療を受けているLVEFの低下した慢性心不全患者(日本人患者を含む)を対象とした国際共同第III相試験(VICTORIA、試験16493)において、本薬の有効性および安全性が確認された。海外では、2021年3月現在、米国で承認されている。

 主な副作用として、浮動性めまい(1~10%未満)、頭痛、消化不良、胃食道逆流性疾患、悪心、嘔吐(1%未満)などがあり、重大なものは低血圧(7.4%)が報告されているので十分注意する必要がある。

 なお、薬剤使用に際しては、下記の事項についても留意しておかなければならない。

●リオシグアトを投与中の患者には禁忌であること

●左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること

●PDE5阻害薬(シルデナフィルクエン酸塩など)、硝酸薬およびNO供与薬(ニトログリセリン亜硝酸アミル硝酸イソソルビドニコランジルなど)を服用している患者に使用する際には、細胞内cGMP 濃度が増加し、降圧作用が増強して、症候性低血圧を起こす可能性があるので併用に注意すること

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