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Q:温暖化が急速に進む北米東海岸のメーン湾。ロブスターに生じる可能性がある影響は?

  • 外骨格が強化される
  • 幼生がより速く成長する
  • 外骨格が溶ける

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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
世界で大流行
マラリアの脅威

JULY 2007


 奇跡の発見は、もう一つあった。スイスの化学者パウル・ミュラーが、既知の化合物ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)がもつ殺虫効果を見いだしたのである。“史上最強の殺虫剤”DDTは病気を媒介する蚊やシラミなどの駆除に威力を発揮し、この功績でミュラーは1948年にノーベル医学・生理学賞を受賞する。わずかな量で何カ月も効果が持続するDDTを使って蚊を駆除することで、マラリア伝播のサイクルを断ち切れるようになった。

 クロロキンとDDTという新兵器を得て、WHOは1955年に地球規模のマラリア撲滅計画に乗り出した。「10年間で一掃する」という目標を掲げて10億ドル(約1200億円)以上の資金を投入、蚊を駆除するために毎年何万トンものDDTが散布された。

 撲滅に向けた地球規模の努力は一定の成果を上げた。カリブ諸国と南太平洋の多くの地域、バルカン諸国や台湾ではマラリアはほぼ制圧された。スリランカでは1946年には280万件の感染例があったが、1963年にはわずか17件に減少。インドでも、マラリアによる死者は年間80万人からほとんどゼロにまで減った。

 だが、WHOが掲げた目標の達成は、現実には不可能だった。熱帯の奥地にはなおもマラリアがはびこっていたが、資金がしだいに底を尽き、計画は1969年に打ち切られてしまった。当時、多くの国々は外国からの援助額減少や不安定な国内政治、貧困の深刻化に直面し、各国の公衆衛生当局は重すぎる負担に悲鳴を上げはじめた。

 一度はほぼ根絶されたスリランカやインドでも、マラリアは再び勢力を盛り返した。サハラ砂漠以南のアフリカでは、そもそも撲滅計画が本格的に展開されることはなかった。

 WHOの計画が破綻してまもなく、蚊の駆除に各地で活躍していたDDTが使えなくなった。マラリア対策のせいではなく、綿花などの栽培農家による使いすぎが問題となったのだ。安価なDDTを必要量の何倍も散布したことで、土壌への蓄積や、川や海の汚染が引き起こされた。

 DDTは、ハヤブサやアシカ、サケには有害だ。1962年、DDTなどの農薬による生態系の破壊に警鐘を鳴らしたレイチェル・カーソンの著作『沈黙の春』が出版されると、これをきっかけに、農薬としてのDDTの使用はほとんどの国で禁止された。マラリア対策用には例外的に使用を認められたが、購入しようにも手に入らなくなった。

 さらに追い討ちをかけるように、最悪の事態が起きた。各種の治療薬に耐性をもつ原虫の出現だ。マラリア原虫は猛スピードで増殖し、突然変異によりめまぐるしく進化を遂げる。クロロキン耐性をもつ原虫が偶然現れると、その遺伝子は後の世代に受け継がれ、薬剤にさらされるたびに、耐性をもつ原虫が増えていく。

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